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榊原病院 岡山県内初の「実施施設」認定 人工心臓手術体制整う

平岡心臓血管外科部長

 心臓移植の適応となる重症心不全患者を対象に、心臓の働きを助ける「補助人工心臓」(VAD)を植え込む治療が広がっている。心臓病センター榊原病院(岡山市北区中井町)は昨年、その装着手術ができる「実施施設」に岡山県内で初めて認定された。まだ手術例はないものの、在宅療養を望む重症患者を支援する体制を整えている。

 VADは薬物やペースメーカーによる治療を尽くしても十分な効果がない、重症の拡張型心筋症、虚血性心筋症などの患者を対象とする。日本では、心臓移植が必要な状態になっていることが前提で、大半は平均3年近くかかる臓器提供を待つ期間の“橋渡し”の目的で使われる。

 従来のVADはポンプ本体が体外に露出し、病室に設置した駆動装置で管理する「体外設置型」のみで、入院し続けなければならなかった。次第に装置の軽量・小型化が進み、体内に植え込んだポンプを携帯型のコントローラーとバッテリーで動かす「植え込み型」が2011年に認可された。現在はポンプ本体90グラムの製品もあり、在宅療養が可能になった。

 中四国の重症患者を多く診ている榊原病院は、植え込み型VADの可能性を見越し、準備に取り組んできた。治療機関は専門学会・研究会で構成する「補助人工心臓治療関連学会協議会」の認定が必要で、17年に装着済みの患者の術後診療を行う「管理施設」に登録され、さらに昨年1月、植え込み手術ができる「実施施設」に格上げされた。

 実施施設は、3例以上のVAD装着手術経験を持つ心臓血管外科医や、装置に精通した「人工心臓管理技術認定士」がいる▽心臓に直接メスを入れる「開心術」を年間100例以上実施している―ことなどが要件となる。

 榊原病院のVAD治療チームでは、心臓血管外科部長の平岡有努医師が、全国有数のVAD手術経験を持つ大阪大学医学部附属病院で約半年間研修し、手術の「実施医」として登録された。看護師や臨床工学技士ら10人は管理技術認定士の資格を取得した。

 植え込み型VADを装着した患者は在宅療養できるとはいえ、細菌感染や装置の故障に備え、2時間以内に実施・管理施設に駆けつけられる地域で暮らすよう求められる。

 実施施設は昨年12月時点で全国に48あり、中四国では榊原病院のほか、鳥取大学と愛媛大学の医学部附属病院が認定されている。全国で既に700例以上の植え込み手術が行われ、次第に増えている。

 平岡医師は「いつでも手術できる体制が整った。交通アクセスに恵まれた岡山で手術から術後管理まで一貫して行うことで、より多くの重症患者さんに安心して療養してもらいたい」と話す。

平岡心臓血管外科部長に聞く QOL維持 全力で支援

 VADの植え込み手術を受けるための条件や装着後に必要なサポートについて、榊原病院の平岡有努・心臓血管外科部長に尋ねた。

     ◇

 植え込み型VADの装着手術を受ける患者さんは通常、心臓移植しか残された治療の選択肢がない状態。急性心筋梗塞や急性心筋炎などで救急搬送された場合、いったん体外設置型VADを装着して回復を待ち、心臓移植の待機登録を済ませてから、あらためて植え込み型に切り替えることになる。

 装着すれば心不全は劇的に改善する。だが、「もう大丈夫」というわけではない。血栓でポンプが詰まる恐れがあり、術後は血液を固まりにくくする薬の服用が欠かせない。脳出血などを起こすと血が止まりにくく、通常よりも症状が重くなってしまう。

 装置のトラブルは命にかかわる。万一に備え、患者さん自身による適切な自己管理と周囲のサポートが重要になる。患者さんを常に見守る家族や介護人がいなければ、装着手術を行うことはできない。

 入院中は当院のVADチームが患者さんと家族や介護人を指導し、VADの仕組みや操作方法、消毒の仕方といった手順を覚えてもらう。外出・外泊の訓練も行い、きちんと扱えるかどうかを確認するテストを受けていただく。バッテリーのプラグが三つ穴タイプの場合はコンセントを交換するなど、自宅の環境も整えなければならない。退院までに通常、3カ月程度かかる。

 きちんとVADを管理できれば、日常生活を送るのにほぼ問題はない。復職や復学も可能だ。

 ドナー不足を背景に、心臓移植の待機期間は長くなる傾向にある。これまでは移植を受ける前に病状が悪化し、亡くなってしまう患者さんが少なくなかった。植え込み型VADによって、そうした患者さんたちの命をつなぐことができる。今後、装着する患者さんが増え、使用期間も長くなっていくだろう。

 私たちのチームは一人でも多くの患者さんに救いの手を差し伸べ、良好なQOL(生活の質)を維持できるよう、全力で支援していきたい。(談)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年01月21日 更新)

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