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第8回 みんなで支える在宅医療・介護

秋山祐治副学長

小川知晶助教

辻真美准教授

用稲丈人講師

森戸雅子講師

 川崎学園(倉敷市松島)が倉敷市と共催する市民公開講座の第8回が1月12日、くらしき健康福祉プラザ(同市笹沖)で開かれた。テーマは「みんなで支える在宅医療・介護」。高齢になり、障害があっても住み慣れた地域で暮らし続けるにはどうすればよいのか、川崎医療福祉大学・医療短期大学の専門家が、介護保険を使った環境整備や訪問支援について解説した。

イントロダクション 川崎医療福祉大学副学長 秋山祐治

 わが国では急速に高齢化が進行し、高齢化率は27%を超えています。平均寿命が延びる一方で健康寿命との差は広がり、要介護(要支援)認定者は既に600万人を上回っています。総人口は減少しており、身内だけで在宅医療・介護を支えるのは非常に難しいのが現状です。

 こうした状況を背景に、従来の入院を中心とした医療・介護から、「地域包括ケアシステム」への転換が求められるようになりました。できるだけ住み慣れた場所で、必要な医療・介護を受けながら、最期まで安心して自分らしい生活を送れるように、地域で「医療」「介護」「住まい」「予防」「生活支援」といったサービスを包括的に提供するシステムです。

 厚生労働白書によると、入院患者の約4分の1は退院後に自宅療養できないと答えていますが、入浴や食事などの介護サービス、家族の協力、療養に必要な用具などがあれば可能だとしています。

 地域包括ケアシステムは「植木鉢」に例えられます。医療や介護などの専門的なサービスが“植物”、生活の基盤である住まいが“鉢”に相当します。安定した生活を送るための介護予防や生活支援が“土”です。どのように過ごしたいのか、本人の選択がベースになります。これは鉢の下の“敷物”に当たります。

 在宅医療・介護を実現するには、この植木鉢を上手に作り育てることが重要です。本日の公開講座では、その秘訣(ひけつ)を4人の講師からお話しします。

知っておきたい介護保険と成年後見制度
川崎医療福祉大学医療福祉学科助教 小川知晶


 「介護保険制度」は2000年に始まりました。40歳以上の方が保険料を払い、介護が必要な人を社会全体で支える仕組みで、今では医療保険と並ぶ存在感の大きな社会保険として認められています。

 介護サービスを受けるには、市町村の介護保険担当課での申請手続きが必要です。遠くて行けない場合は代理申請も可能です。申請後、どのくらいの介護が必要か確認する訪問調査が行われます。主治医にも意見書を作成してもらいます。その調査結果と意見書を基に審査・判定し、要介護度認定の結果が通知されます。申請から結果通知まで30日程度かかります。

 「成年後見制度」は介護保険と同時にスタートしました。認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が十分でない方が不利益を被らないように、意思を尊重しながら、本人に代わって財産や権利を守る制度です。家庭裁判所が成年後見人等(保佐人・補助人含む)を選任します。成年後見人らは、本人の生活や医療福祉などに気を配りながら支援を行います。

 日本の認知症患者は500万人以上と推計されています。しかし、成年後見制度を利用しているのは約20万人にとどまっています。この制度を多くの方に知っていただき、必要な方が活用してほしいと思っています。

ホームヘルプサービスについて知ろう
川崎医療短期大学医療介護福祉科准教授 辻真美


 ホームヘルプサービス(訪問介護)は自宅にいながら利用できる介護サービスです。ヘルパーステーション(訪問介護事業所)からホームヘルパー(訪問介護員)が派遣されます。さまざまな介護サービスの中でも利用が多く、介護保険制度を支えていると言っても過言ではありません。

 ホームヘルパーは自宅で暮らす要介護者の生活を支える専門職です。決められた時間に自宅を訪ね、必要な介護サービスを行います。内容は身体介護と生活援助に大別されます。

 身体介護は食事、着替え、入浴、洗髪、清拭(せいしき)、おむつ交換、排せつの介助、移動の介助など体に直接触れて行うもの。生活援助は掃除、洗濯、調理、生活必需品の買い物などです。

 具体的には、担当するケアマネジャー(介護支援専門員)やサービス提供責任者(ヘルパー主任)と利用者本人、家族介護者との間で相談し、決定します。本人が望むサービスを受けるためには、困りごとや希望をケアマネジャーにしっかり伝えることが大切です。体の状態や自宅の状況が変わった場合には、内容を見直すこともできます。

 ホームヘルパーは本人の思いを尊重しながら、自立・自律を目指します。一日でも長く豊かな在宅生活を送れるように支援します。ぜひ活用してください。

在宅介護に向けて知っておきたい福祉用具と住環境整備のポイント
川崎医療福祉大学リハビリテーション学科講師 用稲丈人


 国の調査によると、自分が要介護状態になった場合、約7割の方が何らかの介護サービスを利用しながら「自宅での介護」を希望しています。介護保険を使った住宅改修と福祉用具の活用は、住み慣れたわが家で介護を受けながら、快適な生活を送るための一助になります。

 住宅改修の目的は、お年寄りや障害のある人が自宅や地域で安心、安全、快適に暮らすため、身体状況に応じた住環境を整備することです。できるだけ自立した生活が送れるようになることを目指します。

 快適で活動しやすい住環境を整えることは、生活不活発病や転倒の防止など、介護予防の視点からも大切です。家族の介護負担の軽減にもつながります。

 介護保険の支給限度内で費用給付を受けることができます。工事を伴う改修が困難な場合、福祉用具の貸与も可能です。ポータブルトイレなど再利用の貸与品に抵抗を感じる物は、特定福祉用具として購入に対する給付制度もあります。

 住環境は人によってさまざまです。制度をうまく活用するとともに、本人の心身状態や動作能力を把握し、介護や建築など分野を超えた多職種の連携が必要です。改修後のアフターケアなども考慮し、人と住環境・用具の調和を図ることが求められます。

最期まで家で過ごすための準備
川崎医療福祉大学保健看護学科講師 森戸雅子


 人生の最終段階の医療・ケアについて、本人が家族や医療・ケアチームと事前に繰り返し話しあい、あらかじめ方針を決めておく「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の考え方が広がってきました。厚生労働省は昨年11月、その愛称を「人生会議」と決定しました。

 最期を誰と、どこで、どんなふうに過ごすか。受けたい治療や受けたくない治療などはあるか―。訪問看護サービスは本人の希望する生き方=「~したい」を応援します。

 医療保険・介護保険などを使い、主治医の訪問看護指示書に基づいて看護師が住まいを訪問し、病気や障害に応じた看護を行います。主治医の指示を受けて医療処置も可能です。夜間の急変時など、家族からの相談にも対応します。病気が重い方だけでなく、悪化防止、回復に向けた支援も行い、予防から看取(みと)りまで本人と家族を支えます。

 訪問看護師は主治医をはじめ、医療、介護、福祉など多職種と連携して“その人らしく生きて逝く”ことをサポートします。最期まで家で過ごすため、早い段階から訪問看護を利用してはいかがでしょうか。

 かかりつけ医、看護師、ケアマネジャー、または「訪問看護コールセンターおかやま」(086―238―7577)へご相談ください。

     ◇

肝臓寿命、生活習慣テーマ 倉敷で9日に第9回講座

 第9回「川崎学園市民公開講座」は9日、倉敷市笹沖のくらしき健康福祉プラザで開かれる。

 テーマは「肝臓寿命―生活習慣の改善が肝臓寿命を延ばす―」。治療薬の開発が進んでB型・C型ウイルスによる肝炎・肝硬変が制御できるようになった一方、過食や運動不足など生活習慣が原因となる肝疾患が増えている。川崎医科大学の教授ら4人が生活習慣改善の重要性や栄養のとり方について解説する。

 午後2時~4時。参加無料。事前申し込み不要。問い合わせは川崎学園(086―462―1111)。講師と演題は次の通り。

 日野啓輔・肝胆膵(かんたんすい)内科学教授「肝疾患における生活習慣の重要性」▽後藤加奈子・附属病院栄養部副主任「川崎医科大学附属病院における肝疾患患者の栄養指導」▽仁科惣治・肝胆膵内科学講師「太りすぎが肝臓を脅かす」▽富山恭行・肝胆膵内科学講師「肝がん、肝硬変には筋肉が必要」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年02月04日 更新)

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