文字 
  • ホーム
  • 岡山のニュース
  • がん早期発見の切り札「PET-CT」検診 画期的画像診断に注目 <対談>岡山旭東病院・土井章弘院長   岡山大大学院医歯薬学総合研究科・金沢右教授

がん早期発見の切り札「PET-CT」検診 画期的画像診断に注目 <対談>岡山旭東病院・土井章弘院長   岡山大大学院医歯薬学総合研究科・金沢右教授

予防医学などについて話す金沢・岡山大大学院医歯薬学総合研究科教授(右)と土井・岡山旭東病院長

肺がんが転移した胸膜。CT画像(左)では、影のように形がはっきりと現れ、PET―CT画像(右)では光で悪性ということが判別できる

放射線科医による画像を見ながらの結果説明。検査が終了して1時間後には結果が分かる

 自覚症状がないような早期のがんを発見する方法としてPET(陽電子放射断層撮影)検診が注目を集めている。CT(コンピューター断層撮影)を組み合わせた装置「PET―CT」を岡山県内で初めて導入した岡山旭東病院の土井章弘院長と、岡山大大学院医歯薬学総合研究科の金沢右教授(放射線医学)に、予防医学をテーマに話し合ってもらった。 (文中敬称略)

 金沢 予防医学には大きく分けて二つの役割がある。がんを例にすれば早期発見と、がんにならないための予防。がんの早期発見では血液検査による腫(しゅ)瘍(よう)マーカー値のチェックなどもあるが、画像診断が大きな役割を占める。従来の胸部エックス線撮影、腹部超音波検査などに加え、注目されているのがPETによる診察とスクリーニング(ふるい分け)だ。

 土井 PETはもともと脳の循環機能や代謝を見るのに開発され、早い時期から注目していた。この機器にがんの早期発見もできる機能が加わったので、ぜひ岡山に入れたいと考えた。岡山は医療福祉が非常に進んでいると言われているが、ばく大な設備費が必要でPETがなかったため、患者さんは他県に受けに行っていたのが現状。岡山旭東病院ではPET―CTとともに、PET用の薬剤を製造するサイクロトロンを導入。画像診断のセンター的な役割を地域貢献の意味で果たすこができればと考える。

 金沢 同じ画像診断の中でもCT、MRI(磁気共鳴画像)は形態診断。それに対してPETは機能診断ができる。正常細胞に比べ、がん細胞がブドウ糖を大量に取り込む性質を利用する。ブドウ糖にフッ素18(放射線同位元素)を結合させた薬剤(FDG)を体内に入れPETで撮影すると、放出される放射線を光としてキャッチ。ブドウ糖が集まっているところが分かる仕組みだ。CTで一センチの腫瘍が見つかっても、がんなのか良性の腫瘍か判断が難しい場合がある。PETでは良性か悪性かといった性格が分かる。形態と機能の融合画像を組み合わせたのがPET―CTである。

 土井 従来の検診では調べにくかった臓器を含め、特定の部位や臓器に狙いを定めずに体の広範囲を一度に検査でき、良性、悪性の判断、転移や再発の把握もできる。アルツハイマーや心臓病の発見にもつながる。岡山旭東病院では昨年四月に導入し、今年七月までで約二千八百人が検査した。このうち45%ががん検診。がんの発見率は2%と従来の検診の発見率(0・2%)の十倍に達している。検診で訪れ、何の自覚症状もないのに見つかったケースもある。

 金沢 欧米では十年くらい前から行われ、長い蓄積と実証データがある。がんが疑われたらまずPETを、という概念で“PETファースト”という言葉が使われているほどだ。PETの後、治療方針を決めることが通常となっている。日本では保険医療として認可されず取り組みが遅れたが、始めてみると素晴らしい検査ということが急速に広まった。

 土井 一方で、PETも万能ではない。糖尿病の人は難しい。PET検査では体の部位によっては分かりにくい場所もあるので、他の検査で補っていく必要がある。

 金沢 臓器別では、泌尿器科系はFDGが尿で流れてしまうので分かりにくい。腎臓、ぼうこう、前立腺のがんは得意ではない。また腫瘍の密度の低いところ、つまり小さい数ミリ程度の腫瘍の場合は出ないこともある。うまく組み合わせることが大切だ。

 土井 われわれの病院は脳神経運動器疾患の総合的専門病院なので、PETで他の部位のがんが発見された場合は、専門の病院と連携して責任を持って治療している。これが地域医療の連携。病院がいろいろな特色を持ちながら、連携してやっていくことが求められている。

 金沢 なぜ早期に発見するか。より手術をしなくて済む治療方法を選べるということが挙げられる。手術も治療の一つで他の治療法もあるということだ。早期発見で手術しなくて済むとなると、体に傷を残さず入院も少なくていいということになる。日本は健康に関心が高く予防医学への興味も非常に高い国。がんでも早期発見で治るということは誇るべきシステムだ。岡山の医療の質がますます高まることを期待している。


 どい・あきひろ 1939年生まれ。鳥取大医学部卒。岡山大医学部脳神経外科入局。香川県立中央病院脳神経外科主任部長などを経て、98年から現職。岡山県病院協会長。


 かなざわ・すすむ 1955年生まれ。岡山大医学部卒。倉敷成人病センター放射線科、米・テキサス大MDアンダーソン癌(がん)センター放射線診断科などを経て04年から現職。


スタンダードコース体験ルポ 結果判定わずか1時間

 がん診療の最先端装置「PET―CT」は、これまでの検診とどこがどう違うのか。岡山旭東病院(岡山市倉田)で「がんドック」を受け、確かめてみた。

 最低四時間という絶食をへて、一般向け三コースで最も受診者が多い「スタンダードコース」(日帰り、十六万八千円)に臨んだ。まず問診と検査説明。奥村能啓・PET・RIセンター長が既往歴などを聞き取った後、PET―CTの仕組みを丁寧に教えてくれた。

 がん細胞は正常な細胞の三~八倍のブドウ糖をエネルギー源として取り込み、PETの画像では光って見える。「おもちゃ箱の中にミニカーが入っているとします。真っ暗な部屋でも光れば見つけられます」と奥村センター長。

 検査準備にかかる。六六キロの体重では、放射性物質を含む薬一・五ミリリットルを腕の静脈から注射。リラックスできる部屋で一時間安静にし全身に行き渡るのを待つ。放射線被ばくは「胃のレントゲン撮影の二回分程度。二時間ごとに体内の量は半減し、一日でほぼ無くなる」(奥村センター長)らしい。

 いよいよ検査室へ。寝台にあおむけになり胸の上で腕を組む。高さ二メートル余りのPET―CTの中央のトンネルを移動。それほど圧迫感はない。痛みはおろか、バリウムを飲んだり内視鏡検査のような抵抗感とも無縁。横になって待つこと三十分。つい、うとうとしてしまいそうだ。

 検診結果は、通常の人間ドックでは十日かかるが、わずか一時間後。結果に気をもむ時間をできる限り短縮する、との配慮らしい。「異常ないですよ」。奥村センター長の言葉に、まずはひと安心。

 コンピューター画像では脳や心臓、ぼうこう、肝臓などが光っているが、もともと糖を多く消費したり、薬が尿として体外に出る経路に当たるためで問題はないという。

 ただ「まれに糖を必要としないがんがあったり、一センチ以下の病変も分かりにくい」と奥村センター長。さらに、正常でも光が集まる臓器では臓器が広範囲に光るため、がんを見つけるのが苦手だそうだ。

 このためスタンダードコースでは、腹部と首の周囲の超音波検査や血液検査を併用。血液検査は、がんで溶け出す特定の酵素やホルモンを調べ、PET―CTの弱点をカバーする。結局、これらにも異常はなかった。

 一抹の不安を抱え来院してから約四時間後。最先端の技術に感心するとともに、すっきりとした気分で病院を後にした。

ズーム

 PET ポジトロン・エミッション・トモグラフィー(Positron Emission Tomography)の略。岡山県内では、CTを組み合わせた「PET―CT」を岡山旭東病院が昨年4月始めたほか、岡村一心堂病院(岡山市)が今月初めにPETを導入。「PET―CT」を含め複数の病院が導入を検討している。ドックの場合は保険が適用されず、従来の検査と比べ、検診料が10万円前後と高額なのが課題。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2005年08月29日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ