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「病客」を安全に元の生活へ 心臓病センター榊原病院(岡山市北区中井町) 榊原敬理事長・院長

榊原敬理事長・院長

榊原病院の「メディカルフィットネス」では、医師がその人に合った運動量などを指示する「運動処方箋」に基づき、水泳や体操、バイクこぎなどさまざまな運動に取り組む

 ―伝統と実績のある病院のトップを預かることになりました。何を大切にしていこうと考えておられますか。

 「温故知新」を座右の銘にしています。1932年に榊原病院を創設した祖父榊原亨初代院長の精神は、「病客」という言葉に象徴されています。医療法の制定によって「患者」という言葉が定着するより早く、「病客」という言葉がふさわしいと考えた思いに心をはせなければなりません。

 時代背景によって、医療に何を求めるかも変わっていきます。当院も地域の医療ニーズに応えていく中で、心臓大血管の治療をメインにしてきました。医療技術はどんどん進歩していますが、持てる技術を最大限に活用して病客さまを救命し、元の生活に戻っていただくことが大切です。

 ―高齢化とともに慢性の併存疾患が増え、体に負担の少ない安全な治療が求められています。

 誰しも入院期間が短く、体への負担や痛みが少ない治療を望みます。低侵襲治療の流れは当然ですが、安全も考えないといけない。低侵襲であればいいというわけではなく、安全に元の生活に戻っていただかなければなりません。

 安全をないがしろにして技術的に先走ってしまい、いろいろな問題が起きています。われわれはこれまで大動脈弁狭窄(きょうさく)症に対して「経カテーテル的人工弁留置術(TAVI)」を行っており、今年から僧帽弁閉鎖不全症に対する「マイトラクリップ」というカテーテル治療も始めました。十分に適応を検討し、確実な手術を行っています。

 技術革新にはついていかないといけませんが、誰が第一例を手掛けたとかではなく、あくまで治療を受ける方のことを考えてやらないといけません。データでは合併症の確率が低くても、たまたま合併症が起きる例に当たってしまえば、その方の人生は大きく狂ってしまいます。

 例えば、カテーテル治療を計画してうまくいかない時に、心臓を開く開心術に移行する手段を考えておくことが必要です。ゴルフで言うリカバリーショットが打てればいいんです。

 ―それには診療科の連携や合同カンファレンスが有用ではないでしょうか。

 診療科の垣根はかなり低くなりました。「ハイブリッド治療」と呼ばれるように、外科と内科が互いのよいところを発揮し、協働しています。医師や看護師を含め、薬剤師、理学療法士、管理栄養士などさまざまな職種がすべての面で協働し、治療に当たらなければなりません。

 一方、オーケストラの指揮者がいないと演奏がバラバラになるように、治療も誰が責任を持つのか明確にし、管理体制をつくらなければうまくいきません。1人の医師がすべて指示するのは難しくなっています。みんなが共通認識を持ち、エラーが起きないようにバックアップする体制が求められているのではないでしょうか。

 それがチーム医療であり、医療の安全と診療レベルの向上を通じて、信頼と満足につながると思います。何でもお任せではなく、ご自身のできることは協力していただくことも必要でしょう。説明責任を果たしていかなければなりません。

 ―退院後に元の生活に戻っていただくため、入院中からどのように対応しておられますか。

 治療は終わったからお帰りください―とはいきません。リハビリも必要ですし、家の中の段差をなくし、手すりをつけていただくとか、さまざまな職種が介入して上手にサポートしなければなりません。地域のことが一番分かるのは地元の開業医です。開業医に対して病院側から助言したり、情報共有を進めたりすることも必要だと思います。

 限られたケースですが、そうした取り組みを始めています。必要な支援を絞って病院からスタッフを派遣したり、スマートフォンなどさまざまな情報交換ツールを活用したりして、効率的な運用を工夫していこうと考えています。地元の愛育委員や民生委員など、さまざまな方の力をお借りしていきたいですね。

 ―メディカルフィットネスも運営しておられます。病気の状態ではないが健康不安を抱えている「未病」の方に目を向けておられるのでしょうか。

 心臓大血管系の病気についてハイリスクである方を絞り込み、効率的に介入していくことが大事です。その意味で、未病対策の大きな柱はメタボリックシンドロームの改善です。リスクが高い方は一般のスポーツクラブでは入会を断られたり、自分ではどの程度運動していいのか分からなかったりします。頑張りすぎて倒れては元も子もありません。われわれが適切な運動量を示し、専門のインストラクターについて正しい運動法を学んでいただくことに意味があります。

 保険で行うリハビリは日数制限があります。終了後も運動した方がいいけれど、病院ではできません。メディカルフィットネスは自己負担はかかりますが、医療と関わりながら運動を継続できます。再び病気になって入院治療を受けることを考えれば、経済的ではないでしょうか。自由な発想で機動的に動ける、われわれ民間病院が取り組むべき分野だと思います。

 さかきばら・たかし 東京学芸大学附属高校、順天堂大学医学部、同大学院医学研究科卒業。ニューヨーク州立Roswell Park癌研究所留学、順天堂大学第1外科外来医長、岡山大学医学部第1外科助手、榊原東病院副院長を経て、2012年、社会医療法人社団十全会理事長(第4代)に就任。昨年11月から心臓病センター榊原病院院長(第7代)を併任。日本消化器外科学会指導医、日本消化器内視鏡学会支部評議員・指導医など。

 ■心臓病センター榊原病院

岡山市北区中井町2丁目5の1
(電)086―225―7111
 【診療科】心臓血管外科、循環器内科、糖尿病内科、人工透析内科、消化器内科・外科、眼科など16
 【病床数】297床(ICU23床、地域包括ケア51床)
 【ホームページ】https://www.sakakibara-hp.com/
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年03月05日 更新)

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