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第8回 心筋梗塞 心臓病センター榊原病院 山本桂三副院長 即搬送で死亡率激減 カテーテル治療や手術

 やまもと・けいぞう 岡山大医学部卒。香川県立中央病院、福山市民病院などを経て榊原病院循環器内科に赴任、2008年8月より現職。三原市出身。45歳。

図1 カテーテル治療の例

図2 バイパス手術の例

 突然、胸の激しい痛みに襲われる心筋 梗塞 ( こうそく ) 。緊急かつ適切な処置が施されなければ死亡する危険性が高い重大な疾病だ。心臓病センター榊原病院(岡山市北区丸の内)の山本桂三副院長に、発症の仕組みや最新の治療法、予後の注意点などについて聞いた。

 ―死亡率の高い病気とされます。どんな人がなりやすく、発症したらどのような対応が必要でしょうか。

 心筋梗塞を発症する人の3分の1は糖尿病患者で、高血圧や肥満、喫煙も大きな要因になります。しかし、血圧、血糖、コレステロールの値が正常な人が動脈硬化になって発症する例も多く、遺伝的要因が強いとも考えられています。脈波の伝わる速度(PWV)の検査で動脈硬化と診断されたら、心臓の精密検査を勧めます。

 また、最近の調査では、心筋梗塞患者の7割ぐらいは冠動脈が半分も詰まっていない状態から、いきなりふさがることが分かってきました。強いストレスがかかった時、入浴時、暖かい所から寒い所へ出たときなどに起こりやすいのですが、安静にしていても発症することはあり、なかなか予測できません。

 一方、治療はスピードが勝負です。胸に激しい痛みを感じたら即、救急車で専門病院に行くことが重要。痛みがあるうちに榊原病院に来た患者の死亡率は2%程度で、自宅で我慢していると約半数が亡くなるともいわれています。

 ―病院での検査法やカテーテル治療、バイパス手術の選択方法はどうでしょうか。

 胸の痛みなど症状が似ている大動脈解離との判別を心電図で行います。同時に血液検査で心筋の傷み具合を示す心筋逸脱酵素などを調べます。一刻を争うときは血液検査は省略してカテーテルを挿入し、血管造影検査を行います。

 3本ある冠動脈すべてに病変を確認したり、枝分かれした2本の根本が詰まっている場合は緊急にバイパス手術を選ぶことがあります。榊原病院では急性心筋梗塞でのバイパス手術は1割前後です。通常はそのままカテーテル治療に移ります。5年生存率はカテーテル治療、バイパス手術ともに90%以上です。

 発症から6時間以上たっている場合は、急な血流再開で不整脈が起きたり、心臓に穴が開くことがあるので、原則として緊急カテーテル治療はせず、冠動脈を広げる薬の点滴や飲み薬を使います。

 ―ステントを使った最新のカテーテル治療について教えてください。

 ほとんどのカテーテル治療は20分~1時間程度で終わり、10日~2週間で退院できます。多くの場合、脚の付け根の血管から詰まった冠動脈へガイドワイヤという髪の毛ほどの細い針金を通してカテーテルを誘導し、まず血栓を吸い出します。次に血管内超音波検査の装置を入れて冠動脈の直径や病変の長さを調べます。そのサイズに見合ったバルーンやステントを挿入して血管を内側から広げ、血流を確保します。

 再 狭窄 ( きょうさく ) を防ぐ薬剤溶出型ステントも普及してきました。血管が特に細かったり、重度の糖尿病の場合には再狭窄防止に有効です。通常型ステントでも再狭窄率は5~10%にとどまっているため使うのは約5割です。再狭窄の多くは半年以内に起こるので、その時期にカテーテルやコンピューター画像診断装置(CT)で調べます。

 ―バイパス手術はどのように行われるのでしょうか。

  肋骨 ( ろっこつ ) の裏を流れる内胸動脈を冠動脈につなぐのが最も成績が良いとされます。緊急を要する場合は脚の静脈を移植することもあります。ただ血管の性質により、動脈がほぼ一生使えるのに対し、静脈は10~20年程度で詰まる可能性があります。

 術中は心臓を止めて人工心肺を使うことが多いのですが、患者の体への負担を減らすために、心臓を動かしたまま手術する方法も確立してきました。

 ―リハビリや予後はどんなことに気を付ければ良いでしょうか。

 初日はICU(集中治療室)に入り絶対安静、2日目に座位になり、3日目に立つというふうにリハビリを進めます。

 重度の心筋梗塞でなければ、ある程度運動した方が心臓の機能が上向きます。さじ加減が大切なので専門医の指導を受けてください。再発のリスクの高い人は退院後もCT検査をし、冠動脈の別の個所が細くなっていれば追加治療を行います。榊原病院では、より鮮明な画像が撮影できる320列CTを中四国地方で初めて導入しています。

 ―治療で心掛けておられることはありますか。

 私の専門はカテーテル治療で、より良い治療をするために心臓血管外科医との連携を重視しています。心筋梗塞は動脈硬化の一面に過ぎないため、頭から足まで全身の血管の検査と治療を行っています。最近は、動脈硬化で血流の悪くなった首の血管のステント治療も始めました。脳梗塞にも注意が必要で、患者さんには「心臓病になったら脳の検査、脳の病気になったら心臓の検査を受けると長生きできますよ」と強調しています。


病のあらまし

 心臓の表面にあって心筋に血液を送る冠動脈が詰まり、心筋細胞が 壊死 ( えし ) するのが心筋梗塞だ。国内では年間約15万人が発症し、早期に治療しなければ約30~50%が死亡するといわれる。

 胸の中央から左にかけて焼け付くような痛みが30分以上続く。痛みが短時間で収まるのは、血管が狭くなって血流が悪くなり心筋が酸素不足になる不安定狭心症。いずれも動脈硬化が原因で、血管内壁に 粥 ( かゆ ) 状の盛り上がり(アテロームプラーク)が発生して破れ、血栓ができる。

 心筋梗塞の症状が出た時は一刻を争うため、すぐに専門病院を受診する必要がある。主な治療法は、詰まった血管を広げるカテーテル治療と心臓バイパス手術の2種類。発症直後に病院で適切な治療を受ければ死亡率は10%以下になる。

 カテーテル治療は、たたんだバルーン(風船)を先端に付けたカテーテルを脚の付け根や腕の血管から挿入し、冠動脈の詰まった個所まで誘導。患部でバルーンを膨らませて血管を内側から押し広げる。さらに、多くの場合は網状の金属でできたステントというリングを患部で広げ置き、再狭窄を防ぐ=図1。バイパス手術は、心臓付近の太い動脈を冠動脈の詰まった部位より先の部分につなぎ、血流を確保する=図2。

 急性期治療の後は、バイアスピリンなど血液をさらさらにする抗血小板剤やコレステロールを下げるスタチン製剤、心臓の筋肉を守るACE阻害剤、ARB、ベータ遮断剤などを飲み続ける。再発防止には動脈硬化の危険因子である高血圧、高コレステロール血症、糖尿病の治療や禁煙も重要になる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年03月08日 更新)

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