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第2部 「いのち」と向き合う (4) 同窓会 願いかなえ 不信薄らぐ

マッサージ後に落ち着いた表情を見せる橋本さん。丁寧なケアと心遣いに感謝していた=昨年12月上旬、倉敷第一病院

 看護師が足の裏に親指を当て、なでるように押していく。昨年12月上旬、倉敷第一病院緩和ケア病棟(倉敷市老松町)。橋本清幸さん(54)=同市林=は一瞬顔をしかめ、すぐ気持ち良さそうな表情になった。

 2年前に治療した左骨盤から 大腿 ( だいたい ) 部にかけての悪性 腫瘍 ( しゅよう ) の肉腫が再発。2カ月前に岡山市内の病院から移ってきた。リンパ液の循環が損なわれ、車いすにも乗れないほどおしりや脚にはれがある。

 「筋肉がねじれるような痛み。もんでもらうだけで違う」。以前いた病院では20分程度だったマッサージに、ここでは毎日1時間以上かけてくれる。

 「汗を垂らしながらしてくれて。心にしみます。来て良かった」

  ~

 この病棟に来た当時、橋本さんは医療や病院への不信感でいっぱいだった。

 脚がはれ、炎症を起こした昨年夏。最初の診断は皮膚の病気。でも、症状が治まらず、「もしや」という不安に襲われながら数週間をベッドで過ごした。

 結局、再発と分かった。抗がん剤の副作用で髪が抜け、 嘔吐 ( おうと ) 。効果はなく、肺転移も見つかった。

 主治医は「余命2カ月」と家族に伝え、自宅から近いこの緩和ケア病棟を勧めた。

 「何で…」。ただただ悔しい思い。だが、この病棟で過ごした2カ月、橋本さんの心は少しずつ穏やかになっていく。

  ~

 きっかけは仲間へのメールだった。

 <来年は行けそうにない…>

 転院直後の10月、大学時代の友人に病状を伝えた。来年の同窓会への出席が難しくなったことも添えると、すぐに「じゃあ、忘年会を兼ねて岡山でやろう」と返事が来た。

 「病院内でできるのかな」。橋本さんが看護師に聞くと難なくOKが出た。

 当日、集まったのは滋賀や三重、徳島などからの7人。会場はデイルーム。総菜やすしを並べ、食欲がなかった橋本さんも思わず「食べ過ぎた」と漏らすほど盛り上がった。

 面会時間は午後7時までだったが、病棟師長の藤田千尋さん(53)は「消灯時間(9時)までならいいですよ」といってくれた。さらに、会が始まると「何時まででも」。

 「あの時は楽しかった。願いをかなえてくれて本当にありがたかった」と橋本さん。

 お見舞いに来た古里の長崎のきょうだいとは、病棟でちゃんぽんめんなど郷土料理を作って食べた。通っていた教会の神父が来てくれ、お祈りもできた。外とのつながりは最期まで切れなかった。

  ~

 昨年12月13日の日曜日。遠方にいる次男が帰省。家族6人が久々に病棟にそろった。妻の美古登さん(52)は夫の好物のスパゲティサラダやちらしずしを作っていった。

 既に、橋本さんの意識は下がっていた。「みんなで写真撮るよ」と声をかけると、目を開け、にっこりと両手で「ピース」をした。

 2日後、息を引き取った。

 「(ここで)いい時間を過ごせたと思う」と美古登さん。夫の口から、以前の病院への不満を聞くことも次第に少なくなっていた。

 「家族や友人にいっぱい会って『疲れた』って…。良い顔をしてました」
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年02月28日 更新)

タグ: がん男性健康

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