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(3)下肢関節疾患に対する人工関節による治療 津山中央病院 整形外科部長 皆川寛

皆川寛整形外科部長 

 日本人の平均寿命は伸びており、高齢化率(65歳以上の人口割合)も増加の一途をたどっています。当院がカバーする岡山県北医療圏は現在、高齢化率34・5%(岡山市25・9%)となっています。平均寿命と健康寿命は約10年の差があり、その原因は関節疾患が10・2%となっています。そのため関節疾患の予防、治療が大切です。

 特に下肢関節疾患においては、疼(とう)痛、歩行障害による日常生活動作制限が著明です。運動療法、装具療法、薬物療法を組み合わせ治療に取り組んでいますが、保存療法に抵抗を示す症例や、疼痛が強く、日常生活動作制限が著明な症例は人工関節置換術を選択します。人工関節置換術とは、関節の傷んでいる部分を取り除き、人工の関節に置き換える手術です。関節の痛みの原因となるものを全て取り除くので、他の治療法と比べると除痛効果が大きいのが特徴です。

 当院では“安全で確実な手術”を信念に診療にあたっています。入念な術前計画をもとに正確な手術を遂行し、術後合併症を長期にわたって発生させないことが目標です。そのためには術前計画が非常に大切で、難症例には術前に3Dで計画を行い(図1)、骨モデルを作成し(図2)、術前準備、手術を進めていきます。また術中ナビゲーション(図3)を使用することもあります。また、早期社会復帰、出血などの合併症対策のため、症例によっては筋・腱(けん)を切離しない最小侵襲手術も行っています。

■リハビリテーションの充実、およびその期間の確保

 運動器の手術では、術後のリハビリテーションが肝要であることは言うまでもありません。手術翌日から開始し、休日も含め退院まで途切れることなくリハビリテーションを行っていきます。専任のスタッフが1日2コマ、回復状況にあった、また病状に即したリハビリテーションを実施しています。そのため、術後2~3週間の早期退院を目指すことも可能になりますが、高齢の方は階段昇降が可能になるまで十分なリハビリテーションを受けていただいています。退院に不安のある場合は試験外出、外泊を重ね、その状況を踏まえて退院日を決定します。

■股関節

 人工股関節の術後にはその特徴的な合併症である脱臼があります。その予防のため以前には姿勢、行動などの日常生活動作制限をしていましたが、現在は制限を設けていません。そのために人工関節設置角度の精度の向上、脱臼のリスク評価を行い、ハイリスク例には脱臼しにくいタイプのインプラントの使用、症例によっては筋・腱を切離しない最小侵襲手術を選択しています。

■膝関節

 人工膝関節置換術においては、関節の損傷が内側にとどまる場合には、関節の一部だけを人工関節へ置き換える人工膝単顆(たんか)置換術を行い、低侵襲化に努めています。また手術直後の疼痛、慢性疼痛への移行防止のため「Multimodal pain control」(多種類の鎮痛法を使用し、痛みのコントロールを行う)を導入し、術後の疼痛コントロールを行っています。究極の目標は手術したことを忘れてしまうことと考え、住民がきちんとした治療をこの地域内で受けられるように、日々研さんを積み、診察に励んでいます。

 みながわ・ひろし 愛媛県立今治西高校、岡山大医学部卒。同大病院整形外科、津山中央病院、旭川荘療育・医療センター、岡山労災病院を経て、2017年から再び津山中央病院勤務。日本整形外科学会専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年04月02日 更新)

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