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第2部 「いのち」と向き合う (9) 前線 診る不安 カバーし合う

診療後に集まり症例を検討する(左から)井上、守屋、安原医師。より良い在宅医療を目指して連携する=玉島医師会館

 終末期の患者の自宅療養を担う“前線”の開業医から不安の声が相次いだ。

 「容体が急変しても学会出張などで不在の時は対応できない」「医療用麻薬の処方などを相談できる専門の医師がいない」

 岡山県と県医師会が昨年12月23、27日、医療関係者を対象に岡山市内で開いた緩和ケア研修会。プログラムは最後のグループワークの意見交換に入っていた。

 研修会は2007年策定の国のがん対策推進基本計画を受け、昨年1月から11回、がん診療連携拠点病院などで開催。ケアの基本から麻薬の使い方、精神科的アプローチなどを学ぶ。

 今回も40人の定員に60人以上が受講を申し込み、関心の高さをうかがわせた。

 だが、自宅療養の普及へのハードルは高い。「カバーし合わなければ対応できない。そのためには、診療所同士や病院との連携が必要」「そのシステムをつくるのは行政か医師会か」。そんな参加者の問い掛けも、答えは出なかった。

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 「うまくいった方だけど、もう少し早くからかかわっていれば、もっと家での望みをかなえてあげられたと思う」

 1月中旬、倉敷市玉島阿賀崎の玉島医師会館。守屋修医師(52)が肺がんの70代男性の事例を報告すると、井上裕昭医師(48)、安原尚蔵医師(64)がうなずいた。男性は昨年12月、抗がん剤治療をしていた病院の紹介で守屋医師が往診、10日余りで亡くなった。

 地元で開業する3人は1998年から連携し在宅患者を診ている。月1回の症例検討会で情報を交換。主治医が不在の時には別の医師が「副主治医」としてカバーし合う。

 がんは容体が変わりやすい。そうした患者は、あらかじめ主治医と副主治医が一緒に家を訪問する。実際に副主治医が緊急対応する例は少ないが、「(補佐する)医師の顔が見えることで患者、家族の安心感にもつながる」と守屋医師は言う。

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 厚生労働省が2008年、一般国民に行った「終末期医療に関する調査」。死期が迫った場合、63%の人が自宅療養を望んだが、「自宅で最期まで療養が可能」と考える人はわずか6%しかいなかった。

 困難な理由(複数回答)は「家族への負担」(80%)や「急変時の不安」(54%)。「往診医がいない」も32%あった。

 「病院から帰れる人は多いはずなんだが…」と守屋医師。「在宅医療の不備もあるが、病院も患者に在宅療養できることを十分紹介できていない」とも指摘する。

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 厚生労働省はかかりつけ医機能を強化しようと、06年に「在宅療養支援診療所」制度を新設。登録した医療機関が終末期患者を診た場合の診療報酬を大幅に加算した。

 岡山県内で登録したのは282カ所。だが、実際の活動には“温度差”がある。玉島の3人のようにグループで診療するケースは少ない。

 守屋医師らは連携10年を記念して公開講座を地元で開いたことがある。家で家族をみとった5人が体験を発表。400人が入る公民館に立ち見がでるほどの盛況だった。

 「家族も医療者も良かったと思えるみとりを一つ一つ積み上げていきたい」。守屋医師らの取り組みは続く。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年03月06日 更新)

タグ: がん男性高齢者医療・話題

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