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第1回子どもと健康 子どもの健やかな成長を見守る

大野直幹氏

大石智洋氏

赤池洋人氏

若林尚子氏

尾内一信氏

 川崎学園(倉敷市松島)と倉敷市が共催する市民公開講座の本年度第1回が4月13日、くらしき健康福祉プラザ(同市笹沖)で開かれた。「子どもと健康~子どもの健やかな成長を見守る」をテーマに、川崎医科大学小児科学のスタッフ4人が講演。救急時の初期対応や食物アレルギーなどを取り上げ、日常生活の中で知っておくべきポイントを話した。

これで安心! 自宅でできる子どもの救急初期対応
川崎医科大学小児科学准教授・川崎医科大学附属病院小児科副部長 大野直幹


 近年、病院を受診する前段階の家庭における救護力、いわゆる「家庭看護力」の向上に注目が集まっています。自宅や学校など子どもの養育現場で起こりやすい救急疾患には、けいれんやアナフィラキシー、頭部打撲、溺水、熱中症などが挙げられます。急変時の初期対応に共通していることですが、「いつもと違う」という「第一印象」が最も重要です。普段の子どもの状態をよく知り、不測の事態に備えることが大切です。

 けいれんは、意識がなく、拳を握ってえび反りになるような激しい筋肉の収縮を伴うことが多く、呼吸が止まって顔は真っ青、眼球は一点を見つめて動かない、という状態を言います。観察のポイントは、眼球が右や左、どちらを向いているのか、体の強直に左右差があるのかどうか―などです。5分以上発作が続いたら救急車を呼んでください。それ以外は自家用車で病院を受診しましょう。

 アナフィラキシーで圧倒的に多いのは食物アレルギーです。じんましんが出るとは限りません。全身が赤くなったり、嘔吐(おうと)や頻脈、呼吸困難が現れたりします。症状が出たらすぐに救急車を呼んでください。エピペンを処方されていればためらわずに打ちましょう。

 頭部打撲で、受傷後すぐに泣いたり機嫌が良ければまず大丈夫ですから傷をしっかり冷やし、受傷後48時間は経過観察をしましょう。意識がなかったり反応が鈍い、出血が止まらなかったり嘔吐を繰り返す、けいれんを起こした場合は救急車を呼んでください。

そうだったのか! 子どものワクチン
川崎医科大学小児科学准教授・川崎医科大学附属病院小児科副部長 大石智洋


 発疹や発熱などの症状が出る風疹は2013年に大流行しましたが、今年も多くの患者が出ていて要注意です。妊娠初期にかかると胎児の目や耳、心臓に障害が起きる「先天性風疹症候群(CRS)」になる可能性があります。

 風疹は感染しても、明らかな症状が出ない人が15~30%いるといわれます。感染力は強く、感染に気づいたときには既に周囲に広がっている場合もあって対策は困難です。従ってワクチンによる予防が重要となります。

 ワクチンとは、病を免れる「免疫」を作る種のことです。大きく分けて生ワクチンと不活化ワクチンがあります。生ワクチンは風疹や麻疹(はしか)などが対象で、病気の元になるウイルスや細菌などの力を弱めたものを接種することで免疫力を獲得します。不活化ワクチンはウイルスや細菌の一部だけを取り出したもので、インフルエンザやB型肝炎などが対象です。

 生ワクチンは効果が強く長く続きます。ほとんどの場合、生涯2回以下の接種で済みます。ただ、弱っているとはいえウイルスや細菌は生きているので、予防しようとしている疾患が発症してしまう副反応が、まれに発生します。

 一方、不活化ワクチンの副反応は少ないとされ、多くが発熱やじんましんなどで、程度は軽く自然に治ります。ただ、生ワクチンに比べ多くの回数の接種が必要となりますし、5年以上たつと効果が薄れてしまうワクチンも少なくありません。

 感染症には、風疹やインフルエンザのほか水痘(みずぼうそう)や流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、百日咳(ひゃくにちぜき)などさまざまあります。いずれにしても必要なワクチンを適切に接種し、感染予防を心がけることが大切です。

ちょっと気になる子どもたち~発達障がい
川崎医科大学小児科学講師・川崎医科大学附属病院小児科医長 赤池洋人


 発達障がいは自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症、知的能力症といったグループに分けられます。

 ADHDは、忘れ物が多いなどの不注意、落ち着きの無さ、順番を待てないと言った衝動性を特徴とし、成人しても持続する行動の量的障がいです。人は、周囲の小さな雑音に対しては注意を向けなければ聞こえないなど感覚刺激のフィルターがありますが、ADHDではそれがなく、全ての刺激を感じ取ってしまいます。「不注意」と言うより「多注意」の状態といえます。

 治療法には環境調整、行動療法、ペアレントトレーニング、ソーシャルスキルトレーニングなどがあります。環境調整では、よけいな刺激を与えないため机は部屋の隅に置き、棚には目隠しをします。片付けは苦手なので大きなかごを用意し、おもちゃを全部入れてあげれば気が散らなくなります。行動療法では社会的な善悪を理解させ、良い行いをすればしっかり褒めて正しい方向に導きます。ペアレントトレーニングでは、困った行動にもそれなりの理由があるので原因を考え、教え上手になれるよう努めます。

 自閉スペクトラム症は対人関係の質的な障がいです。コミュニケーションが苦手で興味の範囲が限られ、儀式的な行動が認められます。表情や声の調子から相手の感情を読み解くことができない、冗談が通じず言われたことを文脈通りに受け取ってしまう、例え話が理解できないなどの特性があります。

 指導する際のポイントは、作業の流れやルールを明確にし、文字にして張り出すなど視覚化します。いつ作業が終わるのかの見通しを示すことも大切です。否定的な言葉を使わず、本人の気持ちを尊重し、まめに褒めてあげましょう。

上手に付き合おう食物アレルギー
川崎医科大学小児科学臨床助教・川崎医科大学附属病院小児科医師 若林尚子


 食物アレルギーは、本来体にとって無害であるはずの食べ物に対して免疫が過剰に働くことで体にとって不利益な症状が引き起こされる状態です。症状を引き起こす物質をアレルゲンと言い、鶏卵、牛乳、小麦が三大アレルゲンです。

 食物アレルギーに対する考え方は大きく変わってきています。以前は、胎児期や乳幼児期にアレルゲンを食べると症状が出ると考えられていた時代があり、妊婦や授乳中の母親、乳幼児期の離乳食の食物制限を徹底していました。

 しかし、食物アレルギーを予防しようと過度の食事制限をした子どもの方が食物アレルギーの発症率が高かったり、「食べる」よりも「肌荒れ部分から影響を受ける」ほうが大きいことが分かってきました。食物アレルギーの最大のリスク要因は皮膚のバリア機能が低下するアトピー性皮膚炎です。今は食物制限は最小限にする一方、スベスベのお肌が保てるようスキンケアを重視しています。

 食物アレルギーは全身の反応ですが、われわれはその症状を、皮膚・粘膜▽消化器▽呼吸器▽循環器▽神経―の五つの臓器に分けて考えます。皮膚・粘膜では発疹や唇の腫れ、かゆみなど。消化器は腹痛、嘔吐、下痢が出ます。呼吸器はくしゃみや鼻水に始まり、顔色が真っ青になるチアノーゼや呼吸停止に陥ることもあります。循環器は頻脈や血圧低下、心停止。神経症状では急激な眠気、意識を失うこともあります。

 新しい治療法としては、毎日少量のアレルゲンを食べて徐々に体を慣らす経口免疫療法があります。どれだけの量をどのくらいの期間食べるのか、症状が出た場合の対応などを慎重に見極める必要があるので、専門医の指示のもとで行います。食物アレルギーは治療が遅れると死に至ることもあります。まずは正しい診断を受けましょう。

座長あいさつ 川崎医科大学小児科学主任教授・川崎医科大学附属病院院長補佐、小児科部長 尾内一信

 少子化が進む中、共働き世帯やひとり親世帯の増加、若い母親と地域とのつながりの希薄化、インターネットの普及に伴う情報の氾濫もあって、育児不安の解消に対するニーズは大きなものがあります。子どもたちが健やかに成長できる環境を整えるには、地域全体で親子を支えるネットワークづくりに加え、正しい知識にもとづく「家庭看護力」の向上が欠かせません。

 今回の市民公開講座は「子どもと健康」をテーマに据えました。小児科を代表する4人が登壇し、小児救急の対処法、感染症に対するワクチンの意義と必要性、発達障がいの症状と向き合い方、昔と比べて対応が大きく変わってきている食物アレルギーについて、分かりやすく解説してもらいます。安心できる子育て環境の実現に向け、それぞれの話の中から幾つかのヒントを学び取っていただければ幸いです。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年05月20日 更新)

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