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(5)すい臓がん 津山中央病院外科部長 篠浦先

3Dモニターを用いた腹腔鏡下での膵体尾部切除

篠浦先外科部長

 すい臓がんと聞いて、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。倉敷市生まれの星野仙一さんや、記憶に新しいところでは、沖縄県知事だった翁長雄志さんもこの病気を患い、命を絶たれました。最近では、女優の八千草薫さんがすい臓がんであることを公表しています。

 すい臓がんの粗罹患(りかん)率は人口10万人あたり32人です。それほど高くはありませんが、本邦での死亡数では肺がん、大腸がん、胃がんに次ぐ4位となります。

 4月12日に国立がん研究センターが、がんの部位別の5年生存率を発表しましたが、すい臓がんは9・2%と、調査したがん腫の中で最も低い値でした。こうしたことからすい臓がんは治りにくいがんとして一般に認知されていると思います。

 では、すい臓がんにかかりやすい方はどんな人なのでしょうか。

 すい臓がんの危険因子(リスクファクター)としては、膵癌(すいがん)家族歴(特に家族性膵癌:親子または兄弟姉妹に二人以上のすい臓がん患者さんのいる家系)▽遺伝性膵炎▽糖尿病▽肥満▽慢性膵炎▽膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMNと訳します)▽喫煙▽アルコール▽職業(塩素化炭化水素使用)―などがあります。

 症状としては、背部痛▽体重減少▽黄疸(おうだん)―などが挙げられますが、他のがんと同じく、症状が出現する段階では、腫瘍が大きくなっていることが多いです。また、市検診等の通常の健康診断では、すい臓がんを見つけることは難しいので、上記のような危険因子のある方は、一度、専門病院を受診されればいかがでしょうか。

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 治療としては、(1)手術療法(2)化学療法(抗がん剤治療)(3)放射線療法で、これらを組み合わせて行います。

(1)手術

 根治のためには、第一選択となりますが、手術の目的は見える範囲のがんを取り除くことですので、切除範囲に含まれない部分にがんがある場合(遠隔転移)やがんが明らかに残る(局所進行)場合には行われません。

 すい臓のがんの場所で手術方法は異なりますが、膵頭部に腫瘍があれば、膵頭十二指腸切除、体尾部に腫瘍があれば膵体尾部切除といった術式が行われています。

 ただ、すい臓がんの手術は、合併症もあることから、手術例数の多い施設(high volume center)での手術をお勧めします。

 最近では、いろいろながんに対して腹腔鏡(ふくくうきょう)手術が行われています。すい臓がんでも一部にとどまりますが、腹腔鏡手術を行うことがあります。

(2)化学療法

 ここ数年で新たな抗腫瘍薬や分子標的薬が開発されてきています。手術を行わない場合にこの治療法が選ばれますが、手術後の再発予防(補助化学療法)としても実施されているほか、最近では手術前の治療としても行われるようになってきています。

(3)放射線療法

 放射線治療単独での治療は行わないことが多いですが、症状(痛み等)の緩和目的や、化学療法と組み合わせて行います。粒子線(重粒子線 陽子線)治療もありますが、粒子線は現時点で保険適応はなく、自費での治療となっています。

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 集学的治療という言葉をご存知の方も多いと思います。切除する手術だけでなく、薬物や放射線を組み合わせて治療を行う方法ですが、すい臓がんにつきましても、ここ数年でやっと集学的治療といえるような治療が実施できるようになってきています。また、途上段階ではありますが、すい臓がんのゲノム解析も行われてきており、今後少しずつ生存率は改善してくると思われます。

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 津山中央病院(0868―21―8111)

 しのうら・すすむ 愛光高等学校、岡山大学医学部卒。岡山大学病院、公立周桑病院、心臓病センター榊原病院、再び岡山大学病院を経て、2016年より津山中央病院勤務。日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会消化器外科専門医、日本肝胆膵外科学会肝胆膵外科高度技能専門医、日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年05月20日 更新)

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