文字 

第2回どうする認知症?

砂田芳秀氏

久德弓子氏

吉武亜紀氏

三原雅史氏

矢島大樹氏

和田健二氏

 川崎学園(倉敷市松島)が倉敷市と共催する市民公開講座の本年度第2回が5月11日、くらしき健康福祉プラザ(同市笹沖)で開かれた。「どうする認知症?」をテーマに、川崎医科大学の教授ら6人が講演。高齢化の進展で今や65歳以上の高齢者の7人に1人に上るとされる認知症について、その診断法や治療法を解説、早期発見や予防のためのポイントも紹介した。

認知症の真実
川崎医科大学副学長・川崎医科大学神経内科学教授 砂田芳秀


 認知症は長寿社会で避けて通れない問題として関心を集めています。2010年に行われた疫学研究のデータによると、65歳以上の高齢者の約15%が認知症と推定されています。75歳を超えたあたりから急激に有病率が増える傾向にありますので、現在の認知症高齢者数は600万人前後と思われます。

 認知症という言葉は、医学的には症状を表す用語です。原因にはアルツハイマー病を筆頭に多くの病気があります。認知症という症状のために日常生活や社会生活を送る上でさまざまな障害が起きます。この障害の重さが認知症の重症度ということになります。

 認知症の症状は原因となる病気によって異なり、もの忘れ以外の症状で始まる認知症もあります。一般に「認知症になったら治らない」と思われていますが、治療で良くなる認知症もあります。原因となっている病気を正しく診断することが大切です。

 ただ、アルツハイマー病に関しては認知症が始まってからの治療は難しいことが分かってきました。症状が出る前から治療を始める先制医療が期待されます。

 一方、生活習慣の改善などで発症の危険性を30%程度減らせるといわれています。最近、欧米では認知症の有病率が低下しているという報告もあり、予防に力を入れることが重要です。

認知症を診断する(1)
川崎医科大学神経内科学講師 久德弓子


 認知症の原因となる病気は、よく知られたアルツハイマー病や脳梗塞だけではありません。アルツハイマー型認知症や脳梗塞などによる血管性認知症は今のところ完治は望めず、残念ながら徐々に悪化することが多いです。しかし、甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏症、正常圧水頭症などのように、早期に発見して治療すれば治る病気もあります。

 認知症を診断するには、症状がいつからどの程度起こっているのかや日常生活上の変化などを問診し、神経心理検査で評価します。その上で、血液検査や画像検査(頭部MRI、脳血流SPECTなど)を行い、原因となる病気を特定します。

 約束をよく忘れるようになった▽同じものを何個も買ってくる▽同じことを何度も言ったり尋ねたりする▽昔から知っている物や人の名前が出てこない▽薬をよく飲み忘れる▽車の運転が下手になった▽慣れた道でも迷う▽雑談ができなくなった▽脈絡のないことを言う▽趣味に情熱を傾けなくなった▽家族の名前を間違える▽身だしなみに気を使わなくなった…。

 こんな症状がいくつもある、あるいは去年よりも随分増えたと思ったら、早めに医師に相談してください。川崎医科大学附属病院でも「もの忘れ外来」を月・金曜日の午前と火曜日の午後に開設しています。

認知症を診断する(2)
川崎医科大学附属病院臨床心理センター臨床心理士・公認心理師 吉武亜紀


 神経心理検査という言葉を聞いたことのある方は、あまりいないかもしれません。

 外来に来られる患者さんやご家族の多くは、認知症に対する不安や心配を抱えています。臨床心理士とソーシャルワーカーは医師の診察の前に、そんな患者さんやご家族の話を30~40分ぐらいかけて丁寧に聞いていきます。

 お仕事は何をしていましたか。どんな生活をしてきましたか。学校には何年行きましたか。何が一番楽しかったですか。少しずつ話をしながら、「そんなお仕事ができていた能力を考えると、確かにこれは心配かもしれないな」といった点を探っていくのが神経心理検査です。

 三つの言葉を覚えてもらったり、「今日は何年何月何日何曜日ですか?」といった設問に答えてもらったりと、ほかにもいろいろな検査があります。100から7を順に引いた数や知っている野菜の名前を答えてもらう“長谷川式”はご存じでしょう。

 検査に備えて、外来で受け答えの練習をされている方がいます。検査では点数が出ますが、あくまで目安です。それだけで認知症かどうかは決められません。大事なのは中身です。

 ありのままの姿をみせてください。気になっていることを聞かせてください。心理士からのお願いです。

認知症を予防する(1)
川崎医科大学神経内科学特任教授 三原雅史


 認知症の発症を完全に防ぐ方法はまだ開発されていません。

 とはいえ、これまでの研究から、発症リスクを高める要因がいくつか見つかっており、そのうちの一部は生活習慣などによって変えられることが分かっています。認知症の発症リスクを下げる生活習慣や原因となる病気の適切な治療に取り組むことで、認知症の予防につながります。

 例えば、喫煙、肥満、高血圧、糖尿病などのいわゆる生活習慣病の危険因子と呼ばれるものは、すべて認知症の発症に関連すると考えられています。運動不足やうつ状態、社会的な孤立、聴力の低下なども認知症のリスクを高めるとされています。これらの生活習慣を見直すことによるリスク軽減効果は約30%といわれています。

 認知症の予防につながる具体的な対策としては、読書やゲームといった知的活動を行う▽1日30分、週2回程度の運動習慣をつける▽独りで閉じこもらず、社会的なコミュニケーションを図る▽低栄養や偏食を避け、バランスの良い食事をとる▽しっかり眠る―ことなどが挙げられます。

 禁煙し、高血圧や糖尿病、高脂血症などの治療をきちんと行うこと、聴力の低下がある方は補聴器などを用いて周囲の話がしっかり聞き取れるようにすることも重要です。

認知症を予防する(2)
川崎医科大学附属病院健康診断センター健康運動指導士 矢島大樹


 認知症の予防にお薦めの運動には、ウオーキングなどの有酸素運動、スクワットなどの筋トレ、デュアルタスク(二重課題)といったものがあります。脳の血流量が増加し、認知機能の向上につながることが期待されます。

 歩行速度が秒速80センチ(時速2・9キロ)以下になると、認知症のリスクが高まるという報告があります。どのくらいのスピードかというと、横断歩道を青信号のうちに渡りきれる速度が目安になります。しっかりと意識して歩きましょう。また、下肢の筋力アップは転倒予防にもつながります。

 デュアルタスクは“ながら運動”のことです。頭を使いながら運動します。自宅で簡単にできるものに、右手と左手で違う動きをする「グーパー体操」があります。右手をグーにして胸に当て、左手をパーにして前に出します。次に手を入れ替え、左手をグーにして胸に、右手をパーにして前に出します。これを繰り返します。

 慣れてきたら、手を入れ替える途中に手拍子を入れます。前に出す手をグー、胸の手をパーにしたり、立って行う際はこれらの動作に足踏みを加えたりしてください。

 運動は完璧にできなくても構いません。「気楽に」、「気長に」、でもちょっとずつ「根気よく」取り組みましょう。

認知症を治療する
川崎医科大学認知症学教授 和田健二


 認知症の治療法には薬によらない「非薬物治療」と「薬物治療」があります。

 非薬物治療としては、認知機能訓練、認知刺激、運動療法、回想法、音楽療法、日常生活動作訓練などがあります。いずれも認知症症状の軽減や進行抑制の効果が報告されています。

 特に暴言、妄想、幻覚、焦燥性興奮、不安、抑うつ、アパシー(無関心)、不眠など認知症の行動・心理症状(BPSD)に対しては、薬物治療よりも非薬物治療を優先的に行うことが原則です。

 薬物治療に関しては1999年に進行抑制を目的とした抗認知症薬が初めて登場し、現在は主にアルツハイマー型認知症向けに4剤が使われています。早期に使用することで、症状を緩和したり、新たな症状の発現を抑えたりと多面的な作用があります。

 薬の効果を最大限に享受するには、認知症の早期発見はもちろん、薬をきちんと継続することが必要になります。そのためには、吐き気や便秘、ふらつきといった副作用の管理も欠かせません。薬剤師、訪問看護師、介護ヘルパーとの協力も重要です。

 認知症治療の目的は、認知機能の改善だけでなく、QOL(生活の質)の向上も含まれます。患者さんの意向を尊重し、敬意と共感を持って対応することが大切です。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年06月03日 更新)

ページトップへ

ページトップへ