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(1)糖尿病が持つ二つの顔 岡山済生会総合病院糖尿病センター長 中塔辰明

中塔辰明センター長

 2016年の国民健康・栄養調査によると、糖尿病が強く疑われる成人は1千万人に達しており、発症にはまだ至っていない糖尿病予備群もほぼ同数の1千万人と推計されています。糖尿病が疑われる成人の中で、現在治療を受けている人の割合は76%程度、特に働き盛りの40代男性では51・5%程度と、糖尿病を発症していながら治療していない人が多く存在することも大きな問題となっています。

■糖尿病は放置すると“怖い病気”

 糖尿病は放置すると網膜症・腎症・神経障害などの糖尿病に特有な合併症や、脳梗塞・心筋梗塞といった命に直結する重大な血管合併症を引き起こします。がんや認知症の発症にも糖尿病が関連することが分かってきており(図1)、治療を怠った場合、糖尿病は隠し持っていた“怖い顔”を現してきます。糖尿病が私たちの健康に対して牙をむかないよう、できるだけ早期からの対策が必要です。

■糖尿病は“予防が可能な病気”

 怖い顔を隠し持っている糖尿病ですが、一方で自分の力で発症や進展を防止することができる“コントロール可能な病気”という側面も持っています。特に、生活習慣が発症に大きく関与する2型糖尿病では、食生活や運動習慣などを見直すことで、発症を予防できることが示されています。

 生活環境が2型糖尿病の発症に大きく関わっていることを示すデータとして、広島大学の先生方が長年にわたり調査を続けている在米日系人医学調査「ハワイ・ロサンゼルス・広島スタディ」という研究があります。

 この研究は、1970年からハワイやロサンゼルス在住の日系米人を対象として調査が行われており、遺伝的には純粋な日本人でありながら米国式の生活をしている日系人と、広島県に住む日本人の糖尿病有病率を比較しています。

 その結果、ハワイに住む日系人の糖尿病有病率は広島県在住の日本人に比べ約3倍も高いことが分かりました(表1)。生活習慣の欧米化が糖尿病の発症に深く関わっていることを示すデータですが、同時に生活習慣の改善により、糖尿病の発症が防げることも示唆しています。

■糖尿病予防の鍵は生活習慣の改善です!

 実際に生活習慣の改善により、糖尿病の発症率が低下することがさまざまな臨床研究で示されています。例えば、食事内容や運動習慣の改善が、糖尿病の発症を4年間で64・7%も低下させたという結果も報告されています(グラフ参照)。最近発表された論文では、境界型糖尿病の人への生活習慣介入が、平均余命をも延ばすことが示されました。糖尿病合併症も予防が可能です。

 糖尿病はコントロールが可能な病気であり、イラストのように“自分で自分の将来を変えることができる病気”と言えます。糖尿病が怖い顔を現さないように早期から上手にコントロールして、一病息災につなげることが大切です。本連載ではそのためのエッセンス(コツやヒント)をお伝えしたいと思います。

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 岡山済生会総合病院(086―252―2211)

 なかとう・たつあき 広島大学付属福山高校、岡山大学医学部卒。倉敷中央病院、岡山大学病院を経て、1997年から岡山済生会総合病院勤務。2006年から現職。日本内科学会認定医・研修指導医、日本糖尿病学会専門医・指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年06月03日 更新)

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