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(6)最近の脳梗塞治療 津山中央病院脳神経外科部長脳卒中センター長 小林和樹

小林和樹部長

 脳卒中は国内の死因第3位、また要介護原因の第1位となる重大な疾患です。

 脳卒中は「突然起こる脳の病気」という意味で、一般的には「脳梗塞(脳の血管が詰まる)」、「脳出血(脳の細い動脈がもろくなり破れて出血する)」、「くも膜下出血(脳の動脈にできたこぶが破れて出血する)」の三つの病気のことをいいます。

 岡山県では2017年に5714人の方が脳卒中で急性期病院へ入院されています(岡山県脳卒中の医療連携を担う医療機関 平成29年度実績の集計より)。 特に脳卒中の約70%を占める脳梗塞は、脳の血管が詰まって脳に血液が流れなくなることで、脳が損傷を受けてしまう病気です。脳は一度傷んでしまうと元に戻すことが難しく、体の半分の運動まひ、しびれ、言語障害といった後遺症で患者さんのQOL(生活の質)が低下するだけでなく、介護が必要となるため、支える家族の生活にも大きく影響します。

 後遺症が問題となる脳梗塞ですが、近年治療方法が飛躍的に進歩しています。

 その一つは、経静脈的血栓溶解療法(t―PA静注療法)です。脳の細胞が死んでしまう前に、詰まった血栓(血の塊)を溶かす薬剤(t―PA)を静脈注射し、脳の血管を再開通させる治療法です。早期に血流を再開できれば、症状がない、あるいはごく軽い状態となり、社会復帰も可能となります。

 この治療法は発症から4・5時間以内に治療を開始する必要があり、発症時刻が不明の脳梗塞や睡眠中に発症した脳梗塞では、この治療方法は行えませんでした。

 しかし、2019年3月の日本脳卒中学会による治療指針の改定により、発症時刻が不明でもMRI検査で脳梗塞の発症が4・5時間以内と推定できる場合には、t―PA静注療法を実施できるようになり、治療の選択肢が広がりました。

 二つ目は経皮的脳血栓回収術です。t―PA静注療法ができない場合や、十分な効果が得られなかった場合に実施されるカテーテル治療で、脳の血管に詰まった血栓をからめとったり、掃除機のように吸い込んだりして直接回収する治療法です(写真1、2)。約80%で血管が再開通し、約半数の患者さんが歩いて退院できるまでに回復します。この治療法も、以前は発症から6時間までという時間制限がありましたが、脳の状態や症状の重さなど一定の条件を満たせば、発症から24時間以内の実施も可能となりました。

 また、脳血栓回収術に使用するカテーテルやステント(写真3)も、より高い再開通率を目指して日進月歩で開発されています。

 いずれの治療法も、以前は治療できなかった患者さんに、新たな治療の道が開けたといえます。しかし、これらの治療ができる施設は県内でも限られ、特に脳血栓回収術は、県北地域では当院でしか行えないのが現状です。当院では今秋に最新の血管撮影装置を備えたカテーテル治療室が2室稼働する予定で、さらに迅速で正確な治療が可能となります。

 時間との戦いともいえる脳梗塞治療ですが、岡山県北地域に位置する当院は医療圏が広く、患者さんの搬送に時間がかかるという非常に厳しい環境です。そこで私たちは、患者さんと最初に接触する救急隊からの搬送情報を元に、事前に受け入れ準備を整え、時間のロスを最小限に抑える体制づくりを行っています。また、定期的に圏域の救急隊との勉強会を開催してスムーズな情報伝達の向上に努めています。

 日本脳卒中学会は本年度中に脳卒中を集約的に治療する医療機関「一次脳卒中センター」を指定する方針としています。私たちは岡山県北地域での脳卒中治療の最後のとりでとして「一次脳卒中センター」の役割を果たし、地域医療に貢献すべく、日夜診療に取り組んでいきます。

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 津山中央病院(0868―21―8111)

 こばやし・かずき 姫路西高校、岡山大学医学部卒。岡山大学病院などを経て、2004年より津山中央病院勤務。日本脳神経外科学会専門医、日本脳神経血管内治療学会専門医(2019年9月より)。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年06月03日 更新)

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