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難治の膵臓がん克服に糸口 岡山済生会総合病院 仁熊健文副院長

週1回開かれるカンファレンス(症例検討会議)に臨む仁熊副院長(中央)。検査結果を基に患者にとって最適な治療法を導き出していく

主任看護師、手術看護認定看護師による術前サポート外来。患者の質問に丁寧に答え、不安の解消に努めている

 膵臓(すいぞう)がんは治療が難しい「難治がん」の代表例として知られている。おなかの深い場所にある臓器で、ほかの臓器や血管に囲まれているため、腫瘍を見つけることが難しい。発見できたとしてもすでに転移があり、余命数カ月という場合も少なくない。そんな難治がんに挑むのが、岡山済生会総合病院(岡山市北区国体町)の仁熊健文副院長(57)だ。あらゆる検査法を駆使して早期発見を目指し、患者の状態に応じた最適な治療の選択を心掛けている。

 膵臓は長さ約20センチの左右に細長い臓器で、右側は膵頭部、左端の細長い部分は膵尾部、それらの中間は膵体部と呼ばれる。食べ物を消化する分泌液(膵液)や、インスリンといったホルモンを作り出す役割がある。

 膵臓がんの特徴の一つとして、初期症状が乏しい点が挙げられる。背中やおなかの痛み、黄疸といった症状は、がんがかなり進行しないと現れない。

 国立がん研究センターが2019年4月に発表したデータが治療の厳しさを物語っている。08~10年にがんと診断された人の5年後の生存率は、胃がんが74.9%だったのに対し、膵臓がんは9.2%にとどまった。

 仁熊副院長は病気の早期発見が治療の第一歩と考えている。症状の確認や腫瘍マーカーなどでがんが疑われたら、磁気共鳴画像装置(MRI)やコンピューター断層撮影装置(CT)を用いた検査を行う。ただ小さな腫瘍は捉えきれず、同病院では超音波内視鏡を用いた方法を導入している。

 内視鏡の先端に超音波装置を取り付け、横になった患者の口から奥深く挿入する。モニターに映し出された膵臓のエコーを基に、胃や十二指腸越しに病変部に針を刺し、細胞を吸引する検査で、細胞検査士がすぐに顕微鏡でがん細胞かどうかを確認する。「EUS―FNA」と呼ばれ、初期段階での発見に威力を発揮する。

 仁熊副院長によると、膵臓がんはがんだけでなく、リンパ節や神経といった周囲の組織までを大きく切除する「拡大手術」が長く行われてきた。術後の再発を防ぐためだが、「国内外の研究によると、大きく切除しても生存率が向上するという結果は得られなかった」と明かす。

 近年はがんの転移の有無や大きさなどで「切除可能」「切除可能境界」「切除不能」に分類した上で、治療法を選択する手法を取り入れている。

 「切除可能」は画像検査で膵臓以外への臓器に明らかな転移がなく、膵臓周辺の主要な血管にもがんが広がっていない場合を指す。遠隔転移がないものの、周囲の血管に近接し、根治切除の可能性が難しい状態だと「切除可能境界」とする。他の臓器へ遠隔転移があり、転移がなくてもがんが動脈など膵臓周囲の主要な血管を取り巻いている場合は「切除不能」と判断される。

 「切除可能だともちろん手術を行い、万一を考え、術後に再発予防のために補助化学療法(抗がん剤治療)を実施する。切除可能境界のがんに対しては、手術してもがんが取り切れない可能性が高いため、術前に抗がん剤治療や放射線治療を行い、がんを小さくしてから手術に挑んでいる」と仁熊副院長は説明する。

 同病院で切除可能と診断し、根治手術ができた患者の5年生存率は42.3%と全国平均に比べ好成績で、仁熊副院長は「膵臓がんも治療次第では決して不治の病ではなくなってきている」と力を込める。

 生存率向上につながったのは、効果の高い抗がん剤が開発され、積極的に活用してきた点が大きい。70代の男性は、がんが見つかった時はすでに切除不能まで腫瘍が拡大していた。ただ、抗がん剤治療を続けた結果、腫瘍は手術ができるまで縮小し、その後、切除に成功したという。

 近年は免疫の仕組みを利用したがん治療薬「オプジーボ」など、新しい薬も次々と開発されている。

 仁熊副院長は「将来的には膵臓がん治療も今以上に一人一人の病状や体力に合わせて仕立てる“テーラーメード”の治療が進むだろう」と話している。

術前サポート外来 不安の和らげに一役

 岡山済生会総合病院では、膵臓がん手術が決まった患者や家族を対象にした「術前サポート外来」を導入している。看護師だけでなく薬剤師や栄養士ら多職種の医療スタッフが対応。1日かけて入院や手術に関するオリエンテーションに加え、退院後の生活などを含め丁寧な説明を心掛け、不安の和らげに一役買っている。

 サポート外来を担当するのは主任看護師と手術看護認定看護師を中心に、外科や内科、麻酔科、リハビリテーション科の医師、薬剤師ら。午前中は、入院から退院までの日々の計画のほか、内服薬の確認や退院後を想定した栄養指導といった点について詳しく話す。午後からはリハビリテーションとして、呼吸法や日々の体力トレーニング方法、痛みのないたんの出し方などを指導する。

 入院費用や術後の療養先の相談があった場合は医療ソーシャルワーカー(MSW)、将来の不安が大きい場合は心療内科医がそれぞれ対応に当たるなど、患者や家族の状況に応じて工夫している。

 近年は患者が高齢化し、さまざまな合併症を持つ患者が増加。通常の外来診療時間だけでは対応しきれないケースも多くなってきたことから、2014年6月に開設した。膵臓のほか食道、肺、肝臓がんの患者を対象にスタート。現在は胃や大腸がんにも広げている。

 仁熊健文副院長は「入院・手術がイメージしやすくなり、手術を受ける覚悟もしてもらいやすいというメリットがある。実際に患者や家族からも『不安が解消された』といった声が届いている。済生会らしい取り組みの一つとして、これからも進めていきたい」と話している。

岡山済生会総合病院(岡山市北区国体町、086―252―2211) 外科外来は岡山済生会外来センター病院(同伊福町、同)で。仁熊副院長の診察は火、金曜日で、受付時間は午前8時~11時半。紹介予約が望ましい。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年06月03日 更新)

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