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戸惑い、反発広がる 特養など食住費保険外に  10月から 負担アップ月数万円も

食事をする特別養護老人ホーム・浮洲園のお年寄り。食費は10月から介護保険の給付対象を外れ、利用者の自己負担となる=倉敷市

 特別養護老人ホームと老人保健施設、介護療養型医療施設の食費と居住費が十月から介護保険の給付対象を外れ、利用者の自己負担になる。六月に成立した改正介護保険法の一環だが、性急な実施や月数万円にも上る負担増に岡山県内で戸惑い、反発が広がっている。

 「年金だけでは自己負担を賄えない」。倉敷市粒江の特養ホーム・浮洲園で今月中旬あった入所者の家族会。食住費の自己負担について説明を聞いた土倉敏昭さん(61)=同市水江=は漏らした。入所している父(90)の年金は月五万円足らず。一方、自己負担は六千円増え五万千円余になる。他に医療費なども必要だ。

 土倉さんはけげんな表情で続ける。「なぜ十月から上がるのか」。新しい予防給付の創設などが柱の改正介護保険法の施行は来年四月だからだ。

給付費抑制狙い

 国が食住費を自己負担にする狙いは介護給付費の抑制。岡山県内の場合、昨年度の給付費は千五十六億円と、介護保険が始まった二〇〇〇年度より55・6%増えた。これに伴い六十五歳以上の保険料は平均で月約三千七百円と六百円近く上がった。厚生労働省は今回の見直しで給付費が年5%減り、来春の保険料上昇が全国平均で二百円抑えられる、と主張する。

 「財政健全化のため早急に取り組む必要がある」。同県の担当者は同法のうち食住費の自己負担だけ半年前倒し実施する理由を説明する。一方で、「もっと猶予期間があれば…」と本音もちらり。同県が施設向けに説明会を開いたのは今月中旬。これを受け食住費の額を決めた施設も多い。

 浮洲園の食費は月四万二千円。居住費は相部屋(定員五十人)が一万円、共用のリビングルームがあるユニット型個室(同三十人)が六万円で、いずれも厚労省が示した「基準費用額」通り。食住費は各施設が利用者との契約により設定すると同省は説明するが、「法成立から実施まで三カ月余と準備期間が短く、基準より高いと利用者の同意が得られない」と田中茂己施設長。周辺の特養ホームも大半が基準費用額通りという。

 同園で最も多い要介護4の入所者は、食住費に介護保険サービスの一割負担を加えた自己負担が相部屋で月八万円と現行より二万八千円増。ユニット型個室は十二万九千円で三万九千円上がる。年金収入が年二百六十六万円未満だと負担が軽減されるものの、利用者の大半は負担が六千~二万五千円増える見通し。「介護保険を支えるのは自助と共助。だが、国は利用者の自助ばかり強調し、共助を忘れている」。田中施設長は嘆く。

利用制限の恐れ

 介護を要する高齢者の生活の場である特養ホームは同県内で百十四カ所(入所者七千百人)、リハビリ施設の老健施設は七十一カ所(同五千五百人)、医療の場である介護療養型医療施設は九十九カ所(同千九百人、いずれも四月現在)ある。

 このうち独自の悩みがあるのは介護療養型医療施設。医療保険適用の療養病床を併設する施設が多く、「同じ病院に入院するのに介護保険適用者だけ食住費を自己負担するのは不公平との声が出る恐れがある」(岡山市内の施設)ためだ。

 もともと「介護保険の療養病床は入院に要介護認定が必要など、使いにくい」(同)とされる。今回の見直しを前に介護の病床を医療保険適用に切り替えた施設は本年度、七月までに県内で五カ所に上った。ただ、厚労省は医療の病床も介護と整合性を図るとして来年の医療保険制度改革で食住費を自己負担とする方向で検討している。

 岡山県立大保健福祉学部の香川幸次郎教授(高齢者保健福祉学)は「本来は食事や居住まで介護のケアに含めるかの問題だが、国は財政論ばかりで、そうした議論が不足している」と指摘。「自己負担が上がる結果、独り暮らしの高齢者ら施設入所を本当に必要とする人の利用が制限される恐れがある。追跡調査が必要だ」と訴えている。

食費が月4万2千円 厚労省 基準費用額示す

 厚生労働省は介護保険施設の食費と居住費が保険対象外となるのに伴い、施設サービスの報酬を減額した。一方、食住費は各施設で設定するが、同省が示した基準費用額によると食費が月四万二千円、居住費が相部屋一万円、個室三万五千~六万円。食住費と施設サービスの一割負担を合わせた利用者負担は要介護5で現行より二万千~六万六千円上がる。

 低所得者には負担限度額を設け、基準費用額との差を保険給付で補い、負担を軽減する。負担限度額は、①生活保護受給者ら②年金収入八十万円以下③同八十万円超二百六十六万円未満―の三段階で、軽減分は月二万六千~八万九千円。同省は、特養ホームの相部屋利用者の場合、20%が①、25%が②、38%が③に当たるとしている。

 また、従来型個室に既に入所し特別室料を払っていない人は経過措置で少なくとも三年間、自己負担の少ない相部屋と同額の扱いとする。

 ショートステイの食費、滞在費とデイサービス、デイケアの食費も十月から自己負担となる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2005年09月23日 更新)

タグ: 健康介護高齢者福祉医療・話題

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