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足の血管の病気 血流回復させ足救う 笠岡第一病院

松前大部長

茅本洋平リーダー

 足の健康は、自立した生活を送ることができる期間である健康寿命を左右する。元気に歩く足を維持するのに大切なのは血流だ。足の動脈が狭まったり詰まったりすると、痛んで歩けなくなる。静脈が逆流すると、足がむくみ、血管がこぶのように浮き出る。笠岡第一病院(笠岡市横島)はこうした足の血管の病気に対し、カテーテルを使った血管内治療やバイパス手術を行い、自分の足で歩き続けられるように治療を尽くしている。

下肢閉塞(へいそく)性動脈硬化症―カテーテルかバイパス

 弾力がなく、硬くなった血管では、脂質などがおかゆ状になってたまり、血流を妨げる。足の動脈で重症化すると、潰瘍や壊疽(えそ)が生じ、命にも関わる。

 笠岡第一病院血管外科の松前大(まさる)部長はこの病気で20年以上の診療経験があり、1500例以上を治療してきたスペシャリスト。「昔は最終的に足を切断するしかなかったが、今は大部分の方で血流を回復させ、足を救うことができるようになった」と言う。

 病期は4段階に分けられる。初め(I度)は冷えやしびれを感じる程度だが、次の段階では、しばらく歩くうちに痛みで歩けなくなり、少し休むと和らいでまた歩くという状態(間歇性跛行(かんけつせいはこう))を繰り返す。III度になると、安静にしていても痛むようになる。

 診断をつけるため、まず腕と足首の血圧の比率を測る。通常は足首の血圧の方が高いが、動脈が詰まっていると足首の方が低くなる。さらに、膝の後ろ、足の甲などに触れて脈拍を確認したり、CTやMRIの画像を観察したりして、狭窄(きょうさく)・閉塞した部位を突き止める。

 初期ならば、禁煙した上で、血流を増やす運動療法や、血液を固まりにくくする抗血小板薬の服用で進行を防ぐ。同病院リハビリテーション科の茅本洋平リーダーは「歩くのが一番。休憩しながらでかまわないので、毎日続けてほしい」とアドバイスする。

 それでも改善しない場合や重症例では、手技を伴う治療が必要になる。

 大半の患者で、最初は血管内に細い管(カテーテル)を入れて治療する。患部に到達したカテーテルから風船(バルーン)を膨らませて血管を押し広げるか、金網の筒(ステント)をはめ込んで血管壁を支える。

 血管内治療は体の負担が軽く、高齢の患者も受けやすいが、ステントの内側に膜が張るなどして再び血管が狭まる恐れもある。「ステントは体にとって異物であり、万能ではない」と松前部長。再狭窄の危険性は患部の位置や長さによっても異なる。「見極めが大切」と強調する。

 狭窄を繰り返す症例には、血管内治療とバイパス手術の「二刀流」で臨む。自分の静脈の一部や人工血管を使って動脈の迂回(うかい)路をつくるバイパス手術は、血管の開通状態をより長く保てる可能性がある。

 多くの施設では、血管内治療を担う内科医はバイパス手術を扱わない。血管外科医として両方の治療を手掛ける松前部長は、さまざまな選択肢を持っていることを強みとしている。

 注意しなければならないのは、動脈硬化は全身に及んでいること。足の動脈が詰まりやすいということは、脳や心臓の血管にも負担がかかっていることを意味する。せっかく足の動脈を治しても、脳梗塞や心筋梗塞などを起こしてしまう人が少なくない。脳や心臓もきちんとチェックしてもらうことが大切だ。

下肢静脈瘤(じょうみゃくりゅう)―レーザー治療が主流

 この疾患では、足の静脈の弁が壊れ、心臓に戻っていくべき血液が逆流し、皮膚に近い静脈にたまってしまう。膨れて曲がりくねった血管は、見た目がこぶのようになる。こむら返りなどを起こして痛むこともある。

 従来は、逆流している血管を引き抜く手術(ストリッピング手術)が多く行われたが、最近はレーザーで血管を焼いてつぶす血管内治療が主流になってきた。針の太さくらいの小さな傷で、早ければ15分程度の短時間で終わる。

 松前部長は「ほぼ危険のない治療。ずっと症状を我慢しているお年寄りも積極的に受けてほしい」と呼び掛けている。

     ◇

 このシリーズでは、多くの方が日常的に困っていたり、治療を迷っていたりする病気について、各医療機関の専門医、医療スタッフが分かりやすく解説します。

アドバイス

傷を見つけたら受診を 松前大 血管外科部長

 つまずいたりした覚えもないのに、足に小さな傷や潰瘍があるのを見つけたら、早めに受診してください。傷が治りにくいのは、既に足の動脈硬化が進んでいるからかもしれません。

 喫煙が動脈硬化の危険因子になるのはもちろんですが、高血圧や糖尿病、高脂血症の方も要注意です。日頃からフットケアに気を配り、足の状態を確認することをお勧めします。

 血管内治療やバイパス手術で回復したら、リハビリもきちんと受けましょう。動脈硬化は全身の病気です。再発を防ぐため、食事療法、運動療法がとても大事です。

毎日歩いて習慣に 茅本洋平 リハビリテーション科リーダー

 動脈硬化に対する運動療法では、1日7000歩を目安とする考えもありますが、難しい方は3000歩くらいから始めて少しずつ増やせばよいです。毎日歩いてほしい。3カ月から半年くらい続けられた方はそのまま習慣にできると思います。病院では、バイクをこいだり、6分間に歩ける距離を測ったりして、簡便に体力をテストしています。運動を続けて血液検査などのデータがよくなれば、それを励みに頑張ろうという意欲がわく方も多いでしょう。自宅では歩数計を身に着けて歩き、歩数や活動量を記録してください。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年06月17日 更新)

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