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(1)化学療法で「がんをやっつける」 岡山市立市民病院 血液内科部長 山本和彦

山本和彦血液内科部長

 日本人の平均寿命は男性81歳、女性87歳を超えていますが、生涯でがんになる確率は男性62%、女性47%とされています(国立がん研究センター がん情報サービスより)。国民の約半数ががんになる現在、「がんをやっつける」ためのさまざまな治療が日進月歩で開発されています。

 治療法の一つ、化学療法は、抗がん剤などの薬を点滴や内服で使用し、がん細胞を死滅させたり、がん細胞の増殖を抑えたりします。手術や放射線のように局所的に行う治療に対して、体全体に効果を及ぼす治療です。

 ただ、抗がん剤はがん細胞だけでなく正常な細胞にも影響が及びやすく、それが副作用として現れます。吐き気などの消化器症状、骨髄抑制などが挙げられますが、これらには副作用を減らすさまざまな支持療法で対処していきます。

 抗がん剤に分子標的治療薬というものがあります。主にがん細胞に多く存在し、がん細胞の増殖に関連する分子(タンパク)を標的とした薬剤です。がん細胞に標的を絞っているため、正常細胞への影響が比較的少ないとされていますが、薬剤ごとに特徴的な副作用に留意する必要があります。

 昨年、本庶佑(ほんじょたすく)・京都大特別教授のノーベル賞受賞で話題となった免疫チェックポイント阻害剤(PD―1阻害剤)は、従来の化学療法では効かなかったがん種(がんの種類)に対しても効果が期待され、使用できるがん種が増えつつあります。

 私の専門としている血液内科領域では、別表のように化学療法の感受性が良好ながんが多いです。全身を巡る血液細胞が相手なので手術で取り除いたりはできませんが、逆に抗がん剤ががん細胞に届きやすく、細胞増殖スピードが速い分、抗がん剤が細胞内に取り込まれやすいので、薬が効きやすいとされています。

 また、新規治療薬の開発が進んでいる分野でもあり、最近では、CAR―T細胞療法(キメラ抗原受容体発現T細胞療法)の話題がニュースになりました。これは、患者さんのリンパ球(T細胞)を採取して、がん細胞表面の特定の抗原を認識・攻撃するように改変して体内に戻すというまさにオーダーメードの治療です。本邦でも認可され、近隣では岡山大学病院で施行できます。

 当院の血液内科には、常に50人程度の患者さんが入院治療をされています。10床のバイオクリーンルーム(無菌室、写真1)があり、急性白血病などの骨髄抑制が高度となる治療はこちらの部屋で行います。

 入院で化学療法を行う患者さんは、筋力が落ちないようになるべくリハビリテーションに励んでいただいています。医師、看護師だけでなく、薬剤師、理学療法士、栄養士、社会福祉士など多職種のスタッフと相談しながら、個々の患者さんに最適な医療を心掛けています。

 また、当院は外来での化学療法を積極的に勧めています。15床のリクライニングシートを有する外来化学療法室(写真2)があり、こちらでさまざまながんの患者さんや、関節リウマチなど自己免疫性疾患の患者さんの治療を行っています。南西向きの日当たりの良いお部屋で、皆さまが少しでもリラックスして治療を受けることができるように、より快適で安全な治療空間を目指しています。

 岡山市立市民病院は、化学療法で「がんをやっつける」病院として、地域の皆さまの健康に貢献できればと考えています。

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 岡山市立市民病院(086―737―3000)

 やまもと・かずひこ 岡山一宮高校、烏取大学医学部卒。岡山大学病院第二内科医員、川崎医科大学免疫学助教、米マウント・サイナイ医科大学留学などを経て、2006年より岡山市立市民病院勤務。日本血液学会専門医・指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年07月01日 更新)

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