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(3)妊娠と糖尿病 岡山済生会総合病院 糖尿病センター医長 勅使川原早苗

勅使川原早苗医長

 女性にとって、妊娠・出産は人生の一大イベントです。しかし、約1割の妊婦が妊娠に伴って血糖値が高くなっている状態といわれています。また、妊娠前・妊娠中・産後の血糖の状態がお母さんや赤ちゃんの状態に影響を与えることも分かっています。今回は「妊娠と糖尿病」をテーマに解説します。

■妊娠前から始める血糖管理

 妊娠すると、胎盤からインスリンの効き目を邪魔する物質(ホルモン)がでるため、妊婦の血糖が上がってしまうことがあります。妊娠前から糖尿病がある場合を「糖尿病合併妊娠」、妊娠中に初めて血糖が高くなる場合を「妊娠糖尿病」といいます。表1に示すような体質の方は「妊娠糖尿病」になりやすいとされていますので、特に注意しましょう。

 では、妊娠中に血糖が高くなると、胎児や母体にどのような影響がでるのでしょうか。

 胎児への影響として、先天奇形や巨大児、呼吸状態の悪化、生まれた後の低血糖や黄疸(おうだん)などがあります。一方、母体では、流産・早産や血圧の上昇、羊水が増えすぎるなどの影響がでます(図1)。

 とりわけ、胎児の体の器官が作られる時期(妊娠3~8週)に高血糖にさらされると先天奇形の原因となり得るため、糖尿病患者は妊娠前から計画的に血糖管理を進めていく必要があります。また、胎児期に高血糖にさらされた赤ちゃんは、成長後に肥満や糖尿病が発症しやすいことが報告されています。お母さんのおなかの中にいる時の環境が、生まれた後の人生にも少なからず影響を与えるのです。

■妊娠中は“血糖値の完全な正常化”を目指す

 現在は、妊娠初期に全ての妊婦の血糖を測定し、95mg/dlあるいは100mg/dl以上の場合は75gブドウ糖負荷試験(ブドウ糖を飲んで血糖の上がり方を見る検査)を行います。この時に問題がない場合でも、妊娠中期(24~28週)に再び検査します。この検査で、妊娠糖尿病と診断された場合は、食事療法(主食を6回に分けて食べる)を行い、それでも不十分な場合は、インスリンを注射して血糖を下げます。糖尿病合併の妊婦さんも、糖尿病の飲み薬は全て中止し、インスリンへ変更します。

 妊娠中の目標血糖は、空腹時70~100mg/dl、食後2時間120mg/dl未満とされています。妊娠していない人の正常血糖値が空腹時で110mg/dl未満、食後2時間で140mg/dl未満ですので、妊娠中はまさに“完全な正常化”を目指すことになります。

■産後も定期的な検査が必要です

 産後はインスリンの働きを邪魔するホルモンを出す胎盤がなくなりますので、血糖値は正常化することが多いですが、妊娠中に血糖が高かった患者は、将来的に高い確率で糖尿病を発症するというデータもありますので(通常妊婦の約7・4倍!)、産後1~3カ月で75gブドウ糖負荷試験を行い、その後も定期的に糖尿病になっていないかチェックすることをお勧めします。産後は育児で大変ですが、お母さんご自身の健康にも気を配りながら、毎日を過ごしていきたいですね。

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 岡山済生会総合病院(086―252―2211)

 てしがわら・さなえ 愛媛県立西条高校、群馬大学医学部卒。岡山ろうさい病院、岡山大学病院を経て、2018年から岡山済生会総合病院に勤務。日本糖尿病学会専門医・研修指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本プライマリケア関連学会指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年07月01日 更新)

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