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37 薬のデパート 10種類服用で“満腹”

薬の山の一部。手前がプログラフカプセル(1ミリグラム)、その右がプレドニン。奥は妙なる味のアミノレバンENと添加フレーバー

 2008年4月7日、ICU(集中治療室)を脱出し、一般病棟の個室へ移った。手術終了の翌日、3月20日にオープンしたばかりの岡山大病院新入院棟6階。弟が19日間暮らしただけの部屋は、ほとんどまっさらの状態だった。

 家族が帰ると森閑が訪れた。「病院はこんなに静かだったのか」とあらためて驚く。ICUにいれば24時間、ナースやドクターの姿を見ることができるが、こちらではみんなノックして入ってくる。

 ということは、自分でできることは自分でやりましょう、ということだ。

 毎日の内服薬も自分で仕分けないといけない。これが一仕事。同年4月15日時点の処方薬一覧を再現すると―。(薬価は09年度)

 【朝食後】アルサルミン=胃炎・胃 潰瘍 ( かいよう ) 治療薬(胃粘膜保護)=7・3円、1包▽ウルソ=胆汁の流れをスムーズにし肝機能を改善=13・8円、2錠▽バクタ=腸球菌属細菌などの抗菌薬=90・1円、1錠▽バルトレックス=帯状 疱疹 ( ほうしん ) などを起こすヘルペスウイルスの抗ウイルス薬=562・9円、1錠▽イトリゾール=カンジダ属などカビ類の抗真菌薬=508・8円、2カプセル▽パリエット=胃酸の分泌を抑えヘリコバクターピロリ菌を除菌=184・7円、2錠▽プレドニン=アレルギー反応を抑え炎症を鎮める副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン系)=9・7円、3錠▽セルセプト=免疫抑制剤(代謝 拮抗 ( きっこう ) 薬)=326・7円、3カプセル▽アミノレバンEN=肝不全患者の栄養状態を改善=113・9円(10グラム当たり)、1包(50グラム)

 【午前9時】プログラフ=免疫抑制剤(カルシニューリン阻害薬)=905・2円(1ミリグラム)、1カプセル

 【昼食後】アルサルミン1包▽ウルソ2錠▽セルセプト2カプセル

 【夕食後】アルサルミン1包▽ウルソ2錠▽バクタ1錠▽バルトレックス1錠▽セルセプト3カプセル

 【午後9時】プログラフ1カプセル▽アミンレバンEN1包

 …おなかいっぱいになっていただけただろうか。10種類。これでも少ない方だろう。ウイルス性肝炎から移植に至った方は移植後も抗ウイルス薬を必要とするし、状態によって多種多様な抗生剤を追加されることがある。

 免疫抑制剤についてはあらためて触れるが、アミノレバンの味は忘れられない。肝臓が求めるさまざまなアミノ酸を補う製剤で、粉末を約180ミリリットルのぬるま湯に溶いて飲む。ところが生地のままだと、私に表現させれば、見た目も味も「生コンクリート」のような代物なのだ(点滴製剤もある)。

 開発した大塚製薬も理解していらっしゃって、コーヒーやフルーツなどいろんな風味の添加フレーバーを用意してくれている。

 プレドニンもやたら苦い。シロップもあるが、物心つく前に移植を受けた子どもたちにとっては、薬の内服は拷問に近いことなのかもしれない。


メモ

 必須アミノ酸 ヒトのタンパク質の原料になるアミノ酸20種類のうち9種類は体内で合成できない。食事で取り入れなければならず、必須アミノ酸と呼ばれる。中でも炭素の鎖が枝分かれした分子構造を持つ分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)は重要で、アミノレバンやリーバクト(味の素ファルマ)の薬効成分になっている。肝性脳症を発症したり、食事から十分な栄養を摂取できなくなった肝臓病患者にしばしば処方される。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年02月01日 更新)

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