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(4)虚血性心疾患の治療を考える 岡山赤十字病院 循環器内科副部長、心血管治療部門長 湯本晃久

湯本晃久循環器内科副部長

 「老いは血管から」と言われ、年齢を経てくると動脈硬化が進行し、その結果さまざまな血管疾患を発症します。高齢化社会を迎え、これからは脳卒中や心不全、心筋梗塞、狭心症などの循環器疾患が増加してくることが予想されています。こういった病気にいったんかかってしまうと、身体機能が低下し生活の質が損なわれてしまいます。

 健康寿命という言葉が広く使われるようになりましたが、平均寿命とは10年程度の開きがあります。元気に健康でいられる時間をなるべく長く保つには、循環器疾患をどう予防するかということが大切になります。そのためには喫煙習慣や高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、肥満といったリスク因子と向き合い、自身の生活習慣を見直すことが必要です(1次予防)。

 心筋梗塞や狭心症といった虚血性心疾患の自覚症状は前胸部、左胸部(まれに右胸部)の圧迫感が代表的なものです。左肩、左上腕、背中、喉が詰まる感じ、下顎の違和感、歯が浮く感じやみぞおちの違和感などとして自覚されることもあります。高齢者や女性、糖尿病や透析中の方については典型的な症状を示さないこともあり、息切れや倦怠(けんたい)感など、ありふれた症状のため気付くのが遅れるケースもあります。症状が気になる場合には、医療機関を受診し、心電図や心臓超音波の検査などを受けてください。

 当院は県内に5施設ある救命救急センターの一つに指定され、24時間体制で救急患者さんを受け入れています。循環器センターでは、心筋梗塞や心不全などの重症疾患をCCU(心臓病の集中治療室)に受け入れ、救命を目標に治療を進め、一人一人の患者さんの心臓の状態に合わせた治療方法を選んでいきます。

 急性心筋梗塞は心臓の血管である冠動脈が急に閉塞する病気ですが、迅速なカテーテル治療が必要なため、来院から90分以内に行うようにしています。カテーテルとは細い管のことで、この管を通じて体外から血管内へと治療器具を出し入れし、冠動脈の治療を行います。

 以前は緊急の場合は足の付け根からカテーテルを挿入しましたが、最近はなるべく手首から挿入しており、低侵襲でより安全な方法になっています。カテーテル治療では、ちょうど良いサイズの薬剤溶出性ステントを選択して病変部に留置します(図1)。冠動脈を広げて血流を回復することで心筋の壊死(えし)範囲を少なくすることがこの治療の目指すところです(図2)。

 カテーテル治療が広く行われるようになり、急性心筋梗塞の院内死亡率は以前と比較し減少しています。しかし急性期治療後の再発は、今でも大きな問題です。薬物治療、心不全や不整脈などの合併症、また生活習慣病のコントロールが大切です(2次予防)。当院では看護師、薬剤師、臨床心理士や心臓リハビリテーション指導士など多職種で連携して、一人一人の生活習慣を見直し退院してからの治療方針を検討しています。

 2013年度からは岡山県においては急性心筋梗塞地域連携クリティカルパス「安心ハート手帳」が導入され、急性期病院とかかりつけ医との間で情報共有をすることで、地域で患者さんを支えていく仕組みができています(包括的心臓リハビリテーション)。当院でもこの取り組みに参加しており、急性期のカテーテル治療が十分行えれば、かかりつけ医で生活習慣病のコントロールをお願いしています。

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 岡山赤十字病院(086―222―8811)

 ゆもと・あきひさ 岡山大学医学部卒。松山市民病院、広島市民病院、岡山大学病院、岩国医療センター、香川県立中央病院、姫路赤十字病院などを経て、2014年4月より岡山赤十字病院勤務。日本内科学会認定医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会認定医、医学博士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年07月17日 更新)

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