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年齢に合わせ運動を 急に動くと思わぬ障害 運動器(筋肉・骨格・神経系)に注意

リハビリを行う千田部長。スポーツをするには年齢に合わせて運動量を決め、疑問点は専門医に相談することが重要だ

 スポーツの秋がやってきた。屋外で汗を流すと気持ちがいいが、普段から運動慣れしていない人が急に体を動かすと、関節などに思わぬ障害を生じることがある。岡山大大学院医歯薬学総合研究科の尾崎敏文教授=整形外科学=と、岡山大病院総合リハビリテーション部の千田益生部長は「年齢に合わせた運動が大切。疑問点などがあれば身近な専門医に相談してほしい」とアドバイスする。


 岡山市鹿田町の岡山大病院。「骨や関節、筋肉などは三十代ぐらいから徐々に老化が進みます。そのことをちゃんと考えながら動かしましょう」。千田部長は外来患者の関節を伸ばしながら話しかける。

 人間は歩いたり走ったり跳んだりする動物で、筋肉や骨格、神経系を総称した「運動器」が、スポーツなど多彩な身体活動を担っている。

 年を重ねるにつれ、機能は少しずつ低下。五十代ぐらいからは痛みが出たり動きが悪くなるだけでなく、持久力や瞬発力も落ちてくる。

 「だからこそ年齢に応じたスポーツを」と千田部長。中高年だとすでに腰痛や肩こり、関節の痛みなどを生じている場合が多い。

 「歩けば何でも健康にいいと思われがちだが実は違う。筋肉を鍛えてからでないと、腰の痛みなどさらに悪化させる事になりかねない」と強調。基礎体力をつけることはもちろん、屈伸など準備運動も重要だ。

 逆に、体力に自信のある若者も無理は禁物。小中高校時代は骨が成長する時期。過度な運動は骨の疲労を引き起こし、将来にわたって障害が出ることが考えられるという。特にひざの結節点が痛くなるオスグッド病など注意が必要。「運動前にはストレッチ、運動後には体を休めるクールダウン。故障しても焦らず体を休ませるなど、心にゆとりを持ってほしい」と話す。

 尾崎教授は「日本はかつてないスピードで高齢化が進行しているため、運動器の役割が再認識されている。運動器は障害を受けたからといって生命の危険に直結することは少ないが、QOL(生活の質)を守り、高めるためにも運動器の役割は不可欠」と時代の変化とともに広がりをみせる整形外科医療への理解を訴える。

 現在、世界中で「運動器の十年」運動が展開されている。一九九八年に開かれた国際会議で、スウェーデンの学者が国際的な取り組みを提唱したのがきっかけ。二〇〇〇年に世界保健機構(WHO)を中心に八十五カ国と七百五十を超える学会が参加してスタートした。

 現代社会は、便利な世の中になり、筋肉や骨、靱帯(じんたい)の衰えを促進、運動器障害を増加させている。日本でも寝たきりや要介護状態にならず、元気で活動的に暮らすことができる“健康寿命”をいかに延ばすかが課題だ。

 尾崎教授は「リハビリやスポーツ外科外来など専門家がいる窓口を気軽に利用してほしい」と呼び掛け、「呼吸器や循環器など内臓器は自分で制御できないが、運動器は自分の意志で活用できる唯一の組織。自立と尊厳を支えている。私たち一人ひとりが関心を持ち、社会的課題としてとらえる必要がある」と強調する。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2005年09月24日 更新)

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