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(3)胃がんとピロリ菌 岡山市立市民病院がん治療サポートセンター長 消化器内科主任部長 西村 守

西村守消化器内科主任部長

 日本において10年ほど前まで、がんの中での死亡のトップは胃がんでした。胃がんの発生は、ピロリ菌という細菌が胃の中で感染して炎症を起こすことと密接に関係していることが分かっています。日本では50歳以上の人の半分以上がこのピロリ菌に感染しているとされているので、かなりの確率で胃がんになりやすい状態であります。死亡する人は少なくなっていますが、まだ、胃がんにかかる人は多く、年間約4万5千人の方が胃がんで亡くなっています。

 そういった中、慢性胃炎を落ち着かせて胃がんを予防する目的で、6年前よりピロリ菌除菌治療が保険で認められています。その条件は、一度胃カメラ検査を受けて慢性胃炎であると診断され、その時に血液検査や組織の検査などでピロリ菌がいることが判明した方が対象となります。その後1週間薬を飲むことで大多数の人は治療可能です。

 この治療でピロリ菌がいなくなると、いたままに比べてがんになる確率は約3分の1になるとされています=グラフ。まだ検査や治療を受けていない方は、ぜひ、医療機関で相談してください。

 注意しないといけないことは、ピロリ菌を除去できても、その後がんに全くならないというわけではないことです。ですので、治療後も定期的に内視鏡での検査を受けられることをお勧めします。

 がんになってもかなり進行するまで特に自覚症状はありません。このため早期発見のため、昔よりバリウムによる胃がん検診が行われてきました。その場合でもある程度進んだ胃がんは発見できますが、ごく早期のがんを見つけるのは難しい状況でした。より早期の発見のため、2年前より内視鏡による検診も始まっております。

 内視鏡も最近では細く柔らかくなり、鼻から行う経鼻内視鏡ではしんどくない検査になってきています。

 もし、このような検査で早期のがんが発見され、胃より外に広がっていないと診断されれば、胃カメラを使った内視鏡的粘膜下層剥離(はくり)術(ESD)という治療方法が一般的になっています=。胃カメラから小さな電気メスのような器具を使ってがんをひとまとまりに切除します。以前では手術をしないといけないような大きなものや、潰瘍瘢痕(はんこん)(治った潰瘍の傷跡)の上にあって切りにくかった病変でも切除できるようになっています。

 リンパ節など胃の外に広がっているような場合でも手術で取り除くことができます。最近では、胆のうや大腸に対して行われている体の負担の少ない腹腔鏡(ふくくうきょう)手術も、胃がんの治療に広がっております。体に小さな穴を開けるだけで手術ができ、術後の痛みが少なかったり退院までの期間が短くなったりします。

 さらにがんが広がっていて、手術もできない場合であっても化学療法という薬を使った治療があります。化学療法も薬の進歩により副作用が少なく外来で治療することが多くなってきています。

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 岡山市立市民病院(086―737―3000)

 にしむら・まもる 岡山一宮高校、岡山大学医学部卒。香川県立中央病院、井原市立市民病院、岡山大学病院を経て2001年より岡山市立市民病院勤務。日本消化器病学会専門医・指導医、日本がん治療認定機構認定医など。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年08月05日 更新)

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