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第10回 皮膚がん 川崎病院皮膚科 荒川謙三部長(院長補佐) 診断から治療まで一貫 苦痛抑え整容面も配慮

 あらかわ・けんぞう 1975年岡山大医学部卒。同学部助教授を経て99年から川崎病院皮膚科部長。2007年から同院長補佐兼任。日本皮膚科学会皮膚悪性腫瘍指導専門医。

携帯できるポケットサイズのダーマスコープが開発され、診察に欠かせない器具になっている

皮膚がん(基底細胞がん)の顕微鏡写真(荒川医師撮影)

 皮膚がんの鑑別は容易ではない。川崎病院(岡山市北区中山下)皮膚科の荒川謙三部長(院長補佐)は早期診断に力を入れ、患者の苦痛を最小限に抑え、整容面にも配慮した手術を心がけている。

 ―皮膚にできる主ながんの種類や特徴を教えてください。

 皮膚がんは目に見えるので、早い段階で発見することも可能です。「悪性黒色腫(メラノーマ)」はメラニンをつくる色素細胞ががん化します。小さな段階から転移しやすく、放射線療法や抗がん剤も効きにくい。極めて予後の悪い、治療のやっかいながんです。

 「日光角化症」は顔や手の甲など露出部にできます。一番浅い表皮にとどまっているがんで、より深く入ってくると「 有棘 ( ゆうきょく ) 細胞がん」になります。有棘細胞がんはやけどや外傷の 瘢痕 ( はんこん ) からできるものもありますが、日光角化症由来のものが非常に増えています。これも転移しやすいです。

 「基底細胞がん」は8割くらいが顔にできます。小さなホクロのように見えますが徐々に大きくなり、 潰瘍 ( かいよう ) をつくります。命にかかわることはまれですが、まぶたや鼻にできると整容面で治療が大変です。

 ―高齢者に多い「パジェット病」は、インキンタムシや 湿疹 ( しっしん ) だろうと思って放置していると危険でしょうか。

 よく間違われますが、表皮に異常なパジェット細胞が増えてくるがんで、性質がまるで違います。徐々に広がり、赤や茶色、白色などが混じり、じくじくすることもあります。陰部にできるため、他人に見せにくく、受診が遅れやすい。進行して真皮に入ってしまうと、 鼠径 ( そけい ) 部(太ももの付け根)などへ転移します。おかしいと思ったら、すぐ受診することをお勧めします。

 ―早期の段階ではシミやホクロと見分けるのが難しいがんも多いと思いますが、どんな検査をして診断しておられますか。

 皮膚科医は基本的に目で見るだけで大半診断することができます。さらに皮膚にレンズを接して約10倍に拡大するダーマスコープという技術が普及し、病変の色の付き方や深さを詳しく観察することができるようになりました。肉眼のマクロと顕微鏡のミクロの中間の方法として、私たちはよく使います。皮膚を採取する病理検査をしなくてよいので、患者さんのメリットも大きいです。

 ―日光角化症など浅い部分のがんでも、切除手術を受けた方がよいのでしょうか。

 手術で完全に取ってしまうのが一番確実な治療で、術後すぐに完治したと言うことができます。凍結治療など他の治療法は確実性がなく、がん細胞が残っていないかずっとフォローしないといけません。日光角化症は顔中に多数できるケースもあり、より進行しているものは手術で取り、初期の段階の病変は他の治療法で補うこともあります。

 ―完全に切除すると同時にきれいに修復してもらえるか心配ですが、どう配慮していらっしゃいますか。

 単純に一本の線で 縫縮 ( ほうしゅく ) するのが一番きれいになります。皮膚には一定のしわの流れがあり、その方向に合わせて縫うのが大切です。縫縮できない場合は、近い場所の皮膚を使ってカバーする 皮弁 ( ひべん ) を行います。近くの皮膚は弾力や色調、構造が似ているので整容的に満足できます。目や口唇の周囲は機能もちゃんと考慮して行わないといけません。

 切除する範囲が大きく皮弁も使えない時は、違う場所から皮膚を持ってきて植える 遊離 ( ゆうり ) 植皮術をします。整容的に必ずしも満足できるものではなく、顔ではできるだけしないよう努めています。

 ―術後の再発や転移はどうフォローしていらっしゃいますか。

 局所再発と所属リンパ節への転移を定期的にCT(コンピューター断層撮影)検査などで見ていきます。手なら 腋窩 ( えきか ) 、下肢は鼠径部、顔なら 顎下 ( がくか ) や 頸部 ( けいぶ ) のリンパ節です。転移が見つかった場合、手術だけでなく放射線療法、化学療法なども選択します。

 ―モットーを教えてください。

 もし自分自身に、あるいは家族にこのがんができたら、どういう治療を選ぶかを考えます。先端治療の中には効果の割に患者さんを苦しめてしまうものもあります。がんをある程度小さくし、おとなしくさせておけば有意義に生活できる。時にはがんを完治してやろうと考えない方がいい場合もあるでしょう。

 「診断から治療まで」をモットーに掲げています。確実に診断をつけ、その人にとってベストの治療法を選ぶ。運悪く進行して亡くなられるとしても、いかに日常を楽しくして差し上げるか、最後まで責任をもってやるという意味です。


皮膚の構造とダーマスコープ

 皮膚は表皮、真皮、皮下組織からなり、成人で約1.6平方メートルの面積がある。表皮は表面から順に角質層、 顆粒 ( かりゅう ) 層、有棘層、基底層の層状構造になっている。表皮の95%は角化細胞(ケラチノサイト)で、基底層の細胞が分裂して新しい細胞をつくり、古い細胞は表面に向かって押し上げられ、最終的にあかになって脱落していく。表皮にはメラニンをつくるメラノサイト(色素細胞)もあり、がん化するとメラノーマを発症する。皮膚にあるあらゆる構造(毛、汗腺、脂腺などを含む)からがんが発生する。

 ダーマスコープ(ダーモスコープ)は、特にホクロとメラノーマ、基底細胞がんの鑑別、診断に役立つ。2006年度から保険適用されている。普通のルーペでは角質細胞で光が乱反射し、内部の色合いを透視することは困難。ダーマスコープはエコージェルを塗ってしわを埋め、表面の乱反射を消す。ライトで明るく照らしながらレンズを密着させ、表皮内から真皮浅層まで詳しく観察することができる。

 ダーマスコープで見ても確定できない場合、皮膚を取って病理組織検査することもあるが、荒川医師によるとその必要が大幅に減っているという。苦痛を伴わず、継続的な経過観察も容易にできる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年03月22日 更新)

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