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規則正しく眠る方法とは? 川崎医福大・川崎医大3教授に聞く

保野孝弘教授

石原武士主任教授

原浩貴主任教授

 秋の夜長、ゆっくり眠れる季節になった。しかし、「寝付けない」「ぐっすり眠った気がしない」など睡眠の悩みを訴える人が少なくない。十分な睡眠は健康の基本だが、多くのストレスに囲まれて生活する現代人の睡眠障害は、うつ病や生活習慣病との深い関連が指摘されている。睡眠の仕組みを研究している川崎医療福祉大学の教授と、睡眠障害の治療に携わる川崎医科大学の教授2人に、睡眠の大切さやどうすれば規則正しく眠れるかについて話を聞いた。 

川崎医療福祉大学臨床心理学科・保野孝弘教授
体内時計の調整が必要


 川崎医療福祉大学臨床心理学科の保野孝弘教授によると、睡眠と目覚めは生物時計(体内時計)とホメオスタシス(恒常性)の相互作用によって生まれるという。

 体内時計の中枢は脳の奥の視交叉上核(しこうさじょうかく)という部位にあり、1日の体内リズムをコントロールしている。睡眠と覚醒だけでなく、ホルモンの分泌や血圧、体温調節などに関わり、日中は体温や血圧を高めて活動しやすくするなど、時間とともに変化する外部環境に対応している。一方、ホメオスタシスは寝不足など睡眠の過不足を調整する働きを担っている。

 ただ、体内時計の1日は24時間より少し長いため、生活の中で調整しなければならない。日光などの刺激によって毎朝リセットすることが肝心だ。また、夕方から夜になるとメラトニンなど眠りに関連するホルモンの分泌が増え、睡眠に導かれる。夜中にスマートフォンの画面などから出るブルーライトを浴びると、メラトニンが抑制されて体内時計が乱れ、睡眠障害が起きる可能性がある。

 眠りは成長ホルモンの分泌や体を守る免疫力の活性化にも影響する。保野教授は「睡眠が妨げられると集中力の欠如やイライラ感、疲れやすさなどが高じて日常生活に支障が出る上、自律神経のバランスが崩れ、血糖値や血圧の上昇も招く」と注意している。

川崎医科大学精神科学・石原武士主任教授
高齢者は「遅寝早起き」


 夜中に何度も目覚めたり、希望時間よりも早く目覚めてしまう「不眠症」の背景には、ストレスやアルコール依存、内科的な疾患などさまざまな要因が潜んでいる。不眠症に詳しい川崎医科大学精神科学の石原武士主任教授は、これらの要因の中でうつ病、生活習慣病が不眠症と深い関連があると指摘する。

 睡眠障害があれば高血圧や糖尿病など生活習慣病のリスクが高まるが、気分が落ち込み、喜びの感情を失ってしまうなどするうつ病も運動不足などにつながり、生活習慣病を併発しやすい。生活習慣病がある人には不眠症が多い。「不眠症とうつ病、生活習慣病は互いに連鎖し、悪影響を及ぼし合っている」という。

 こうした不眠症やうつ病の改善に向け、石原教授はまずは規則正しい睡眠と食事、定期的な運動など生活習慣の見直しを指導する。

 とりわけ高齢者には「遅寝早起き」を推奨している。睡眠の満足度を左右する眠りの質は、睡眠時間よりも、布団に入っている時間のうち実際に眠っている時間の割合を示す「睡眠効率」で決まると言われているからだ。

 健康な65歳の人の平均睡眠時間は6時間ほどとされる。石原教授は「眠らなければと思って早い時間から床に就くのではなく、本当に眠くなってから布団に入り、早起きする。これで睡眠効率は高まり、眠りの質が改善する」とアドバイスしている。

川崎医科大学耳鼻咽喉科学・原浩貴主任教授
大きないびきに注意を


 睡眠障害の中には、居眠り運転など重大事故につながりかねない危険なものもある。日中に強い眠気や集中力の低下を引き起こす閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)がその代表で、川崎医科大学耳鼻咽喉科学の原浩貴主任教授が治療に当たっている。

 OSAは、いびきや日中の眠気があり、睡眠時間1時間あたりの無呼吸(10秒以上の呼吸停止)と低呼吸(10秒以上呼吸が浅くなって有効な呼吸になっていない)が合わせて5回以上―という定義に基づいて診断する。

 特徴的な症状は大きないびき。OSAの患者が仰向けに寝ると、舌の付け根(舌根)が喉の奥に落ち込んで気道を狭めたり、ふさいだりしてしまう。息苦しくなり、呼吸しようとして、狭い気道を猛スピードで空気が流れる際、いびきが生じる。この呼吸のたびに脳は瞬間的に何度も覚醒する。そのため熟睡感が得られず、日中も強い眠気に襲われてしまう。

 原教授によると、欧米人に比べ日本人を含めたアジア人はOSAのリスクが高い。比較的あごの小さいアジア人は、下あごの中に舌が収まりにくく、奥に下がりやすいためで、特に「あごの細いタイプの人は注意が必要」という。肥満やアレルギー性鼻炎による鼻づまり、就寝前の飲酒などもリスクを高める。

 近年、OSAが増え、潜在的な有病率は20%とも言われる。高血圧や脳卒中、心筋梗塞、糖尿病、認知症などの合併も心配される。原教授は新しい手術治療も導入し、異常ないびきなどがある場合、早期の受診を呼び掛けている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年10月21日 更新)

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