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(6)肝がん~隠れ脂肪肝や糖尿病は要注意 岡山市立市民病院 消化器内科主任部長 能祖一裕

能祖一裕主任部長 

 今回は肝がんの危険因子についてお話しします。

 肝がんはがん死亡の原因の中で、5番目(男性では4番目)に多いがんです。肝臓は沈黙の臓器と呼ばれ、たとえがんになっても大きくなるまで症状の出ないことが多く、健診を受けないと早期発見が難しいのです。いままでB型肝炎やC型肝炎にかかっている方や、アルコールをよく飲む常習飲酒者以外から肝がんが発生することは多くはなかったのですが、最近脂肪肝や糖尿病などが誘因となった肝がんが増えてきており、注意が必要です。

■増加する非ウイルス性肝がん

 図1に、当院に肝がんで入院した患者数の年次推移を示しています。C型肝炎からの発がんは、抗ウイルス治療の進歩により徐々に減少しています。一方、ウイルスが原因とならない非B非C肝がんは増加し、肝がんの原因の中で一番多くなっているのです。全国調査でも同様に、非B非C肝がんが増加していると報告されています。このうち約半数はアルコールによるもの、残りの半数は肥満による脂肪肝や糖尿病が関係していると考えられています。

■非アルコール性脂肪肝

 人間ドックなどの健診を受けた成人の20~30%に脂肪肝があるとされています。少し前までは、脂肪肝はあっても病的意義は少なく、問題にしなくて良いと考えられていました。ところが脂肪肝のうち10~20%が、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)という肝硬変に進行する病態であることがわかってきたのです。放置すると5~10年で5~20人に1人が肝硬変まで進行し、肝がんの原因となることが判明したのです。問題は脂肪肝を放置している人や、脂肪肝があることを知らない「隠れ脂肪肝」の人が多くいることです。また糖尿病があると、肝がんになる確率が2倍になることも知られています。

■アルコール性肝疾患

 アルコールは生活に潤いを与える「百薬の長」として、太古の時代から飲まれてきました。しかし、何事も適量が大切で、ビールなら1日大瓶1本まで、日本酒なら1合までとされています。適量なら問題はないのですが、量が多くなると肝臓の機能が低下し、アルコール性脂肪肝となります。また、おつまみなどでカロリーオーバーとなると、脂肪肝になりやすくなるので注意が必要です。

 アルコールを長期間過量摂取すると肝臓が徐々に硬くなり、最終的には肝臓がんの母地となる肝硬変となりますが、男性よりも女性のほうが早く進行することが知られています。摂取したアルコールの絶対量が問題とされており、純アルコール量で1トン飲酒すると、必ず肝硬変になるとされています。これは日本酒3合を毎日、約45年間続けた量に相当します。

■肝がんの予防

 原因=図2=を取り除くこと、すなわちB型肝炎やC型肝炎の方は抗ウイルス剤で治療をすることや、ウイルスを持っていない方では、肥満の解消やアルコールを飲みすぎないことが、肝がんの予防につながります。また、健診などで脂肪肝や肝機能異常を指摘されたら放置せず、肝臓の専門医に相談することが重要です。非アルコール性脂肪肝炎は肝硬変になる可能性がある疾患ですが、治療によって進行を止めたり遅らせたりすることができるのです。まず自分自身の肝臓の状態を知ることが大切です。特に糖尿病(予備軍を含む)の方は、積極的に肝臓の定期健診を受けてください。

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 岡山市立市民病院(086―737―3000)

 のうそ・かずひろ 高松高校、岡山大学医学部、同大学院卒。米国国立がんセンター、東京大学消化器内科、広島市民病院内科、岡山大学大学院分子肝臓病学・准教授を経て、2014年より岡山市立市民病院勤務。岡山大学医学部客員教授併任。日本肝癌(がん)研究会幹事、肝癌取り扱い規約委員。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年10月21日 更新)

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