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3 乳幼児の発熱 重要なサイン 要注意

 生後二カ月の女児が夜十一時、むずがるので体温を測ってみると三八・七度でした。そういえば昨日からいつもと違って少しむずがっていたような気がします。母乳は飲むのですが、十分飲んでいるのかよく分かりません。いつもよりは回数が多くてすぐに飲むのをやめます。便は出ていますが、少しおなかが張っているようです。時々うめくような息をすることもあるし、顔色はいつもより幾分優れないような気がします。一カ月検診では、母乳の飲みもよく体重もよく増えていて順調な発育だと言われました。初めての発熱なので母親は慌てて、病院の救急外来を受診しました。

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 お母さんが病院へ駆けつけたのは大変良い判断でした。この女の子は、手遅れになっていたかもしれません。病名は、大腸菌による 腎盂腎炎 ( じんうじんえん ) (尿路感染症)でした。乳幼児期によく見られる病気です。乳児期特に生後三カ月以下では重症の敗血症を伴っていることが多く危険な病気です。幸い早く入院してすぐ抗生物質が投与され二週間後に無事に退院できました。この子は退院後、尿路の造影検査で 膀胱 ( ぼうこう ) から尿管への逆流現象が発見されました。腎盂腎炎をまた再発しないように、退院後は外来で抗生物質の予防投薬を受けています。

 このように生後三カ月までの発熱は特に要注意です。一般的に生後三カ月までの乳児は母親の免疫で守られています。また、母乳は免疫力を高めます。したがって、発熱することはまれです。しかし、母親から授かった免疫や母乳は決して完全ではなく安心はできません。このころの子どもはたとえ重症でもはっきりした症状がでないので要注意です。発熱が唯一のサインであることがよくあります。また、お子さんが何かいつもと違うという家族の方の感じも重要な手がかりとなります。

 生後三カ月までに発熱する乳児には、この子に見られた腎盂腎炎のほかに 化膿 ( かのう ) 性髄膜炎、肺炎、骨髄炎、関節炎など放っておくと命にかかわる病気や後遺症が心配な病気も数多くあります。繰り返しになりますが、これらの病気の初期の症状も発熱やいつもと違うといったあいまいな症状がほとんどですので、生後三カ月以内の発熱には注意しましょう。

 生後六カ月ごろになると母親から授かった免疫も弱まり、突発性 発疹 ( ほっしん ) や呼吸器感染症などさまざまな感染症にかかります。特に、保育園などに通い集団生活をし始めると、他の園児から呼吸器感染症や消化器感染症などさまざまな感染症をもらい、よく発熱します。こんな時には、お子さんがよく発熱するため生まれつき免疫が弱い病気ではないかと、ご両親が不安がられることがよくあります。しかし、免疫不全症はまれな病気であり、ほとんどの場合心配ありません。生後六カ月を過ぎると発熱することは増えますが、機嫌が良いときは慌てることはありません。お子さんの様子をよく観察して、落ち着いて適当なときに小児科を受診してください。このような場合、夜間に慌てて受診すると、かえって体調を崩す場合もあります。風邪の引きはじめなどは安静を保つことも重要です。

 (尾内一信・川崎医科大小児科教授)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2005年10月22日 更新)

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