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MRIで乳がん早期発見 着衣のまま痛みもなし

無痛MRI乳がん検診では着衣のままうつぶせで装置の中に入って撮影する。乳房を圧迫されることはない

岡山中央病院の乳腺外科医にドゥイブスの画像読影を解説する高原教授(右)。早期発見、早期治療に役立てることを期待している

金重総一郎院長

 乳がんは女性のがんの中で最も患者数が多い。早期発見して治療を受ければ、軽快して仕事や子育てに戻れる可能性が高いが、エックス線で乳房を調べるマンモグラフィーなどの検診受診率は50%に満たない。女性のがん検診・治療に力を入れている岡山中央病院(岡山市北区伊島北町)は今年8月から、岡山県内で初めて、痛みのないMRI(磁気共鳴画像装置)による乳がん検診を導入した。マンモグラフィーの苦痛を嫌って検査をためらっている女性たちに、受診を呼び掛けている。

 無痛MRI乳がん検診は、東海大学の高原太郎教授(放射線科専門医)が開発したDWIBS(ドゥイブス)という撮影法を用いて行われる。MRIのベッドに乳房の形にくりぬいたパッドを載せ、受診者はTシャツなどの薄い服を着たまま、うつぶせに寝て検査を受ける。撮影時間は十数分。受け付けや着替えの時間を含めても30分程度の短時間で終わる。

 岡山中央病院では、これまでに約100人が受診。既に数人の乳がんの疑いのある人が見つかっている。いずれも、がんと確定しても早期だろうという。

 MRIは磁石が発する磁気と電波によって体内の画像を撮影する。ドゥイブス法のがん検診は、電磁波が水分子の運動に反応することを応用する。急速に増殖するがん細胞は、正常な細胞に比べ、ぎゅうぎゅうに詰まった状態になる。そのため、水分子はがん細胞の中では自由に動けず、速度(拡散)が遅くなる。その違いを強調して描き出した「拡散強調画像(DWI)」で、がん細胞の集まりを見つけようというわけだ。

 マンモグラフィーによる検診では、板状のプレートで乳房を挟んで平たく伸ばして撮影する。人によって強い痛みを感じ、服を脱いで乳房を露出しなければならないため、恥ずかしさから忌避する人もいる。無痛MRIは乳房を圧迫せず、裸を見せる必要もない。

 さらに、乳腺が発達している「高濃度乳房」の検診でもMRIが有利だ。乳腺組織が白く写るマンモグラフィーでは乳房全体が白く見え、がんも同じように白く写るので「雪山の白ウサギ」を探すような状態になる。ドゥイブス法は乳腺濃度の影響を受けにくく、高濃度乳房でも高い精度でがんを見つけることが期待できる。

 40歳以上の女性は市町村の住民検診などで2年に1度、少額の負担でマンモグラフィーを受けられる。しかし、15歳から39歳の若い女性(AYA(アヤ)世代)は集団検診の対象にならず、しかも高濃度乳房の人が多い。そのため、AYA世代の乳がんは進行した状態で見つかることがしばしばで、治療が困難になる。

 高原教授は「マンモグラフィーも受けていただきたいが、嫌な人にはドゥイブス法の検査もある。一度も乳がん検診を受けていない若い女性に知ってほしい」と望む。

 放射線被ばくの心配がないことも、MRIを使うドゥイブス法の利点。マンモグラフィーはエックス線を照射するため、少量の被ばくがある。ドゥイブス法と同様、全身のがんを調べることができる検査としてPET(陽電子放射断層撮影)もあるが、放射線を発する検査薬を注射するため、ある程度の被ばくは避けられない。

 40歳から69歳を対象に調べた乳がん検診受診率(国民生活基礎調査)は2016年で全国44.9%。岡山県も47.4%にとどまっている。人間ドックなど任意の検診を含めても半数以上の人が検診を受けていないことを示し、早期発見のためにも受診率の向上が大きな課題になっている。

 岡山中央病院の無痛MRIは任意検診の扱いで、2万円近い費用は自己負担となる。しかし、金重総一郎院長は「ドゥイブス法で撮影してきれいな状態なら、しばらく受診間隔をおいても大丈夫だろう。十分メリットがあると思う」と話している。

     ◇

 ドゥイブス法の指導で岡山中央病院を訪れた高原教授、導入を決めた金重院長に、開発の経緯や今後の普及について尋ねた。

東海大学 高原太郎教授 未受診者の間口広げる

 MRIによる拡散強調画像では、目に見えない微細な水分子の拡散速度を捉える。最初は脳梗塞の診断で実用化されたが、呼吸によって何センチも動く体幹部のがんは無理だと信じられていた。私は2004年、息を止めなくてもきれいに3次元の全身画像が撮れることを証明し、ドゥイブス法を確立した。

 乳がん検診に使うには、乳腺がきちんと写るように、左右のバランスを調整したり、脂肪の信号を抑制したりしなければならない。現在、この検査は全国17の医療機関が導入している。特定の病院で特定のスタッフしか撮れないということでは、検診対象の女性全員に普及することはできない。画質の基準を定め、こういう方法で撮影すべきというガイドラインの作成に協力している。

 ドゥイブス法では1000人あたり14.7人に乳がんが見つかっている。これまでマンモグラフィーの検査を受けてこなかった人に対して行うと、こんなにたくさん発見できるということに意義がある。未受診者の間口を広げていくための検査だ。

岡山中央病院 金重総一郎院長 検診の選択肢に

 学会で高原先生と知り合い、とてもよい検査法だと分かって導入した。当院は女性のがん検診に力を入れており、1人でも多くの方に受けていただくのが使命だと思う。

 特に、仕事や子育てに励む若い女性のがんを少しでも減らしたい。無痛MRI検診は短時間で終わり、働いている人でも受けやすい。現在は平日のみだが、体制が整えば土曜・日曜にもやりたい。

 マンモグラフィーで見つけにくい高濃度乳房の人には、超音波検査の併用を勧めているが、その費用は自己負担になる。いくらか追加していただけば無痛MRIが受けられるので、選択肢として検討してほしい。

 ■岡山中央病院(岡山市北区伊島北町) 無痛MRI乳がん検診は原則平日午前9時~午後5時、予約で受け付ける。検査費用は19580円(税込み)が標準。予約の連絡先はセントラル・クリニック伊島(086―252―3222)。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2019年11月18日 更新)

タグ: がん女性岡山中央病院

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