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7 麻疹 1歳でワクチン接種を

 一歳二カ月の男の子。三日前から鼻汁とせきが続いていましたが、昨日から目やにも出てきました。きょうから三八・五度の発熱となり、顔から胸部にかけて 発疹 ( ほっしん ) が出始めました。せきも増加し、機嫌が悪くなり、昨夜はぐずって眠りませんでした。笑顔が消え、元気もなくなってきたので、救急外来を受診しました。


   ◇   ◇


 風邪症状に高熱と発疹が認められ、診察の結果、両目の結膜炎と 口腔 ( こうくう ) 内にコプリック斑という白斑が認められました。検血では白血球数が七千、CRP(C反応性 蛋白 ( たんぱく ) )は陰性で、麻疹でした。明日でも手遅れではありませんが、発熱とせきが激しいので受診されました。気管支炎や肺炎の合併症はありませんでしたので、 去痰 ( きょたん ) 剤と解熱剤を処方しました。水分を十分に取るようにしてもらい、明日かかりつけ医を受診するように説明し、帰宅してもらいました。

 麻疹は麻疹ウイルスの空気感染によって人から人へと感染する病気です。感染力は大変強力で、ワクチン(予防接種)をしないとほとんどの子どもがかかってしまいます。感染から約十日で発症し、症状は風邪症状に引き続く結膜炎、発熱、発疹です。発熱や発疹は四、五日続き、皮膚に色素沈着を残して治ります。治療では、麻疹ウイルスを殺す薬(抗ウイルス剤)はありません。せきと発熱に対して、対症療法として、痰を軟らかくしてせきを減少させたり、解熱剤を使用したりします。

 日本では、麻疹は毎年四万~十万人が感染し、約二十~三十人が死亡しているといわれています。死亡は麻疹後の肺炎によるものが大部分です。麻疹の解熱後に再び発熱した時には早めに受診してください。血液検査や胸部レントゲン検査が必要です。意識障害やけいれんをきたすと脳炎を合併したと考えられます。この時には、できるだけ早く受診してください。麻疹脳炎も千例に一例合併すると報告されています。中耳炎もよく起こる合併症です。麻疹は考えられているより重症な病気なのです。

 今、麻疹が小流行している先進国は日本とドイツだけです。麻疹ワクチンで麻疹を撲滅したアメリカから「日本は麻疹の輸出国」として非難されています。

 岡山県でも昨年約四十人が感染しています。幸い死亡例はありませんが、県では麻疹の撲滅宣言を発表し、キャンペーンしています。

 先にも述べましたが、麻疹ウイルスを殺す薬はありませんし、合併症も多い病気です。麻疹にかからないためには、ワクチンを接種するしか対策はありません。小児科学会では「一歳になったらすぐ麻疹ワクチンを」というキャンペーンを実施しています。

 注意しないといけないのは、来年四月一日から無料で接種できる年齢が十二~二十四カ月に短縮したことです(従来は十二~九十カ月まででした)。現在十二~九十カ月の小児は来年三月末までに接種してください。また、ワクチンの接種率を95%以上にして麻疹を撲滅するために、小学校入学前の一年間に二回目の接種も無料で受けられるようになります。

 (国富泰二・岡山赤十字病院小児科部長)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2005年11月26日 更新)

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