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8 下痢 まず脱水状態を防止

 二歳の女児。二日前から便がゆるくなり、回数も五回程度と増えていました。昨日は水のような下痢便で、色が薄く白色に近い便が一日十回以上ありました。昨日は少し熱もあったようです。おしっこがどのくらい出ているのか、オムツを替えるたびに便と混じっていてわかりません。なお昨日から、食欲はなかったので、主にスポーツ飲料を少しずつ飲ませているだけでした。今朝おきてから 嘔吐 ( おうと ) が二回あり、ぐったりした様子なので病院の小児科外来を受診しました。

  ◇   ◇

 排尿状態がはっきりとはしませんが、脱水状態になっていることが考えられましたので、体重を測定しました。体重は数日前に量った体重と比べて5%程度減少していたので、軽症の脱水状態であると判断しました。

 ぐったりとした様子なので念のため、小児科外来で点滴を二時間かけて行いました。食欲がなくても脱水状態にならないようにスポーツ飲料を飲ませていたので、あまり重症化しなかったのだと思います。

 冬場にはこのような乳幼児の嘔吐下痢症が増加します。大半はこの女児のように白っぽい下痢便となるもので、ロタウイルスの感染で起こります。ウイルス性の胃腸炎では発熱は伴わないか、あっても女児のように微熱が二日程度で済むことが多く、水のような下痢便には血液が混ざらないのが普通です。

 下痢の期間は一週間程度で、初期に嘔吐を伴い、半日ぐらいで治まってきます。腹痛はありますが軽度です。十回以上の水のような下痢が続き嘔吐も合併するため、重症の脱水状態になることもあります。

 下痢はかぜについで子どもに多い病気で、ほとんどが腸管のウイルス感染症です。

 しかし、細菌に感染して起こる細菌性下痢がないわけではなく、夏季には幼稚園や学校などでの集団発生が毎年のように起きています。病原性大腸菌O157のような重い合併症を伴う消化管感染や、サルモネラ菌などがペットから感染する場合もあります。細菌性下痢症は発熱と血便が特徴で、強い腹痛を伴います。O157感染症のように、細菌性下痢症は重症化すると命にかかわることもあるので急いで病院に連れていきましょう。

 発熱、血便、腹痛を伴わない下痢症では脱水状態の防止が一番大事です。水分の補給には塩分と糖分が適度に含まれたスポーツ飲料を少しずつ飲ませてください。

 番茶や 白湯 ( さゆ ) などは塩分が含まれていませんので水分の補給としては適当ではありません。また、かんきつ類系のジュースは下痢を悪くするため、乳製品は嘔吐を誘発することがあるので飲ませない方が良いでしょう。なお、市販されているスポーツ飲料中の塩分の濃度は脱水症の治療としては少し薄すぎるということも覚えておいてください。

 発熱、血便、腹痛を伴う嘔吐下痢では急いで受診することが必要です。嘔吐が続く、水のような下痢が一日十回以上ある場合も脱水になりやすいので早めに受診されることを勧めます。おしっこの出方が極端に少ないとか、ぐったりとしている、唇や口の中が乾燥しているなどの症状も脱水が進んでいることの目安ですので受診が必要です。

 (田中弘之・岡山大小児科助教授)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2005年12月03日 更新)

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