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24 目を突く外傷 兆候あれば すぐ眼科受診

 五歳の男児です。夕方、兄と食事中に父親が帰宅したので、右手に二本の 箸 ( はし ) を持ったまま走って迎えに行きました。その時、床のマットにつまずいて転び、片方の箸が右側の下まぶたに突き刺さってしまいました。母親は箸の先が四センチほど折れて無くなっていたので、まぶたの裏の目の玉に突き刺さっていると考え、病院の救急外来を受診しました。

   ◇   ◇

 救急外来ではすぐに眼科医が診察し、箸による「 穿孔 ( せんこう ) 性外傷(目の玉に突き刺さる外傷)」の病名で緊急手術を行いました。視力は不良となりましたが眼の玉(眼球)は保存できました。

 子どもの目の外傷は、零歳から六歳までの例は少なく、七歳以上から圧倒的に多くなります。乳児では熱湯やお湯が顔や直接目にかかるなど、保護者が注意すれば防げることがほとんどです。しかし、幼児では大きくなるに従い、活動範囲も広がり、自己主張も強くなって、さまざまな外傷に遭遇する機会が増えます。多くは本人の責任による事故ですが、これも保護者の注意でかなり防げるものです。外傷の部位別では「まぶた」と「目の玉」がそれぞれ30%で全体の60%以上を占めます。

 「まぶた」や「目の玉」の外傷は、何と言っても隠すことができない顔の中心であること、視力に関係しているため、見かけの問題と見え方の不自由さに直結します。それが他の身体部位の外傷とは異なっている特徴です。

 手や足の擦り傷などは無理やりでも水で洗って済みますが、目はどうでしょう。いやがる子どもの目を見たり、水洗いしたりするのは怖くてできません。目の中に傷があるのを診ることは一般医や、たとえ小児科医でも難しいでしょう。保護者が「おかしい」と気づいた時には既に手遅れになっていることがあります。明らかに大丈夫と思われる時以外は、即、眼科医の診断を受けるのが鉄則です。

 さて、外傷で怖いのは「目を突く外傷」です。症例にも示しましたように、物を持って、特にお箸や棒を手に持っている時に転倒したり、後ろから押されたり、他人が持っている時にぶつかったりして、「まぶた」だけでなく「目の玉」も突き刺したり、裂いたりすることがあります。これほどゾッとする外傷はありません。「目の玉」が傷害されると、その目の影響で反対の良い方の目まで悪くなることがあるため、昔は傷害された目を摘出するほどでしたが、今は眼科医療の進歩で傷害の目をうまく治療できるようになっています。しかし、乳幼児の間は「手に長いものを持って歩かせたり振り回す」ことを絶対に禁じてください。保護者の責任です。また、子どもの視線は本当に低いので、その辺りにある子どもの目を引くものは、ほとんどが危険物になり得ますので、それらを置かないようにすぐ片付けてください。

 何か目に事を起こして、痛がっている時は誰でも分かりますが、痛みのないことが多く、また軽い痛みの時は平気です。しかし「目をつぶっておとなしくしている」「目をよくこする」「目が異常に赤い(充血)」「目が引っ込んでいる(まぶたが下がっている)」「なんとなく見にくそうにする」などの兆候は危険信号です。一両日中に眼科を受診して下さい。

 (田淵昭雄・川崎医療福祉大感覚矯正学科長)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年04月29日 更新)

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