文字 

注目される「AYA世代」 岡山に当事者グループ、気持ち共有「孤立」防ぐ

AYA世代の当事者グループを立ち上げたボーマン三枝さん(左)。情報や体験を共有しようと呼び掛けている

クリスマス会では神奈川県の当事者グループとビデオ会議で話し合い、今の生活や不安などについて尋ねた

AYA世代の支援を巡り親や医療者が意見交換した小児がんフォーラム分科会=岡山大学Jホール

 思春期(adolescent)と若年成人(young adult)の頭文字から「AYA(アヤ)世代」と呼ばれる、15~39歳で発病するがん患者が注目されている。中年以降に比べると患者数は少ないものの、がんの再発や治療の副作用に対する不安だけでなく、進学、就職、結婚、出産など人生の重要な節目で治療との兼ね合いに悩み、難しい選択を迫られることがある。医療者にも打ち明けにくい本音を語り合い、互いの経験に学ぶ当事者グループが昨年、岡山で立ち上がった。他の地域のグループとも交流し、支え合いの輪を広げようと活動している。

 鶏の唐揚げにドリア、イチゴのホールケーキ…。女性たち8人が料理の並ぶテーブルを囲む。昨年12月8日、若年性がんサポートグループ「AYA(アヤ) Can(キャン)!!」初のクリスマス会が岡山大学病院近くのブックカフェ栞日(しおりび)(岡山市北区鹿田町)で開かれた。

 「抗がん剤治療中は段ボールをかじっているみたいだった。今は何を食べてもおいしくて、太っちゃいそう」。あいさつもそこそこに体調を巡るよもやま話が始まる。20代から30代で乳がんや卵巣がん、肺がんを経験した女性たちは、家事や子育て、仕事のことなど、堰(せき)を切ったように話を弾ませた。

 グループを主宰するボーマン三枝さん(38)=岡山県早島町=は、31歳の時に乳がんを告げられた。英国人の夫と結婚してまだ3カ月。手術でがんは取り切れたものの、再発を防ぐためにホルモン療法を勧められた。注射・内服薬の治療は数年間続き、その間は妊娠することを避けなければならない。

 子どもが欲しかったボーマンさんは悩んだ。当時はがん患者の妊娠・出産についての情報がなかなか得られなかった。リスクを承知でホルモン療法を辞退し、2人の娘を産むことができたが、「同じ世代の患者仲間が集まり、相談できる場所があればよかった」という思いが残り、昨年6月にグループを結成した。おしゃべり会や勉強会など、これまでに6回集まった。

 一番つらかったのは、治療中の「孤立」だという参加者が少なくない。卵巣がんを手術し、抗がん剤治療も受けている女性は「一時は何もかも怖くなり、外出できなくなった」と訴えた。ネットで自分のがんを検索しても暗い情報ばかり。ママ友とも顔を合わせられない。やっとの思いでグループにたどり着いたのだという。

 グループのモットーは「自分らしく楽しく生きる」。初めて知らない人に自分の乳がんを打ち明けた女性は「同じ病気の人なら理解してもらえる。私は誰かに話したかったんだと気づいた」と、気持ちが楽になったことを喜んだ。

 クリスマス会では、神奈川県のAYA世代患者グループ「アグタス」と連絡を取り、オンラインのビデオ会議で交流した。アグタスには男性の患者もおり、治療による男性の性機能への影響や、今の生きがいは何かなど、岡山側から質問を投げかけ、互いにエールを送り合った。

 ボーマンさんは今後、企業にも自分たちの経験を伝え、支援を求めたいという。「治療と仕事の両立で、どう対応すればいいのか分からない企業も多いと思う。対話を通じて、私たちのことを知ってほしい」と望んでいる。

 フェイスブックの「AYA Can!!」ページでおしゃべり会などの情報を告知している。問い合わせはボーマンさん(080―1902―4168)。

医療者も支援の動き 岡山大で分科会

 小児がん治療に携わる医療者も、長期療養を続けてAYA年代にさしかかる患者たちの支援に目を向けている。

 今月11日、岡山大学鹿田キャンパスで開かれた小児がんフォーラム(岡山大学病院小児医療センターなど主催)でも、AYA世代の支援をテーマにした分科会が設けられ、10代から青年期を迎える患者の家族や看護師らが話し合った。

 多くの小児がんは治療によって治るようになったが、抗がん剤や放射線治療の影響は長く体に残る。身長の伸びや第二次性徴が遅れたり、10年、20年を経て別のがんを発病する「二次がん」のリスクがあったりと、不安を抱えている患者や家族が多い。

 分科会では、20歳になると小児慢性特定疾病の医療費助成が打ち切られ、医療費の負担が重くなる▽進学や就職に際して病歴をどう説明すべきか悩んでいる―などの実情を訴え、医療者と共有した。

 島根大学医学部附属病院チャイルド・ライフ・スペシャリスト(医療現場で子どもを心理・社会的に支援する専門職)の黒崎あかねさんも議論に参加した。同病院小児センターには昨年8月、本棚や机、ソファがある家庭的な「AYAルーム」がオープンしており、「院内学級もない高校生年代の患者はこれまで行き場がなかった。集まりやすい部屋ができ、同世代が交流するきっかけになってほしい」と話していた。

15~39歳 患者の78%女性 国立センター全国調査初公表

 国立がん研究センターと国立成育医療研究センターは昨年10月、15~39歳のAYA世代のがんについて、初めて全国規模の調査結果を公表した。2016、17の2年間でがんと診断された5万7788人のうち、約78%が女性だった。

 がん診療連携拠点病院、都道府県が推薦する病院など全国844の施設を対象に集計した。AYA世代の女性患者は4万4946人で、男性1万2842人を大きく上回った。

 25歳を過ぎると患者数が増えていき、AYA世代全体では30歳以上が約75%を占める。20歳未満では男女の人数に差はないが、20歳以降は女性が多かった=グラフ参照。

 がんの種類では、分類上「癌腫(がんしゅ)」とされる乳がん、泌尿生殖器がん、消化器がんなどが含まれる項目の割合が高い。子宮頸(けい)がんや乳がんに罹患する女性が多いためとみられる。

 また、患者の居住地と治療を開始した医療施設の所在地との関係も分析しており、岡山県は患者と施設の対比が112・1%だった。この割合は東京都(127・1%)に次いで全国2番目に高く、他県からも、多くのAYA世代患者が治療を受けるために来県していることが分かる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年01月20日 更新)

タグ: がん

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ