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(5)適度な運動で脊椎圧迫骨折を予防 岡山ろうさい病院中央リハビリテーション部部長 須堯敦史

須堯敦史部長

 「いつの間にか骨折」という言葉を聞かれたことはないでしょうか? これは腰部に強い痛みを感じて病院を受診してみると、脊椎(背骨)がいつの間にかつぶれるように骨折していたことから名付けられた俗称です。正式名称は「脊椎圧迫骨折」といいます。

 脊椎は骨折しても、すぐそばにある神経の束(脊髄)まで骨片が接触せず、しびれや運動まひなどを生じないケースがあります。そのため、気が付かないうちに細かな脊椎の骨折を繰り返し、本来S字カーブを描く脊椎が後方へカーブするように「後弯(こうわん)」していきます=1。

 ■脊椎後弯変形が身体に与える影響

 脊椎が後弯すると、生活においてさまざまな不都合があります。まず、脊椎をまっすぐ保つ脊柱起立筋が引き伸ばされ、筋力的な余裕がなくなります。さらに身体が前方に傾きやすくなっているために、正しい立位姿勢を保つことが難しくなります。そのため、仕事や家事などを含め、多くの日常生活動作に影響が出ます。

 腰椎後弯が大きくなると、歩行バランスが悪化し、転倒リスクが1・4倍になるという報告があります。転倒すると、脊椎以外の部位に骨折を来すこともあるので、転倒予防は大変重要です。また、脊柱の変形が横隔膜や消化器の運動を制限するため、肺活量の低下や逆流性食道炎を引き起こすこともあり、生命予後においても影響があると言われています。

 脊椎圧迫骨折が起きる背景には、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の進行があります。25歳時と比べて、身長が4センチ以上低くなっている場合、骨粗鬆症の可能性があり、椎体骨折の危険率が上昇するという報告もあります。また、生活の不自由さや外見の変化で、脊柱の異常に気づくこともあります。図2はご家庭でできる簡易な脊柱変形の自己診断方法です。不安な方はご自身で脊柱の変形度合いを調べてみてください。

 ■運動による骨粗鬆症の予防

 リハビリテーションの視点から、運動による骨粗鬆症予防について説明します。私たちの身体における骨量は、20歳前後で最も多くなります。女性では働き盛りである50歳前後から、閉経に伴う女性ホルモンの減退に伴い、骨量の減少が始まります。

 骨量の減少は骨粗鬆症に直結するため、中高年からの予防が必要です。日常生活において身体活動が活発なほど、骨量減少が抑制できます。日頃から家に引きこもらず、適度に体を動かすことを意識してください。

 脊椎に運動負荷がかかると、腰椎の骨密度が上昇するため、50歳前後からでも歩行やジョギング、ダンスなどを始めるとよいかもしれません。骨粗鬆症予防と治療のガイドライン(2015年)において、腰椎の骨密度を上昇させるため、1日に8千歩以上の歩行を、週に3回以上行うことが推奨されています。同様に背筋力の強化運動も推奨されていますが、過度な負荷は脊椎の骨折を引き起こす可能性があります。適度な負荷の背筋力強化体操を紹介します=図3

 働き盛りの年代から適度な運動を継続することが、骨粗鬆症および脊椎圧迫骨折の予防につながります。年齢を重ねても、継続できるような運動やスポーツをぜひ見つけてください。

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 岡山ろうさい病院(086―262―0131)

 すぎょう・あつし 九州リハビリテーション大学校卒。九州工業大学大学院前期課程修了。総合せき損センター、北海道せき損センターを経て、2019年4月から岡山ろうさい病院に勤務。脊髄障害認定理学療法士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年01月20日 更新)

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