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第8回腸内フローラ

宮川健氏

青木孝文氏

矢野博己氏

松生香里氏

みんなで健腸体操

 ヒトの腸内には100兆という膨大な数の細菌がすみ、私たちの健康に大きな影響を与えている。1月11日、くらしき健康福祉プラザ(倉敷市笹沖)で開かれた本年度第8回の川崎学園市民公開講座(川崎学園主催、倉敷市共催)では、これらの細菌がつくる花畑「腸内フローラ」をテーマに、川崎医療福祉大学の講師陣が講演した。心臓やおなか、脳などの病気との関わりを解説し、食生活・運動習慣を見直して腸内環境を整え、健康を保つ秘けつを指南した講演内容を紹介する。

健康と腸内フローラのお話
座長 川崎医療福祉大学副学長健康体育学科教授 宮川健


 今回のテーマは、今話題の腸内細菌と健康との関わりについてです。専門的に研究している本学の教員3人が登壇しますが、その前に、基礎的な知識をお話しします。

 ヒト1人の体を構成している細胞の数は約37兆2千億個あります。それに対し、ヒト1人のおなかにすむ腸内細菌は約100兆個と言われています。体内にある細胞の約7割は自分以外の細胞集団ということになります。だから、腸内細菌が私たちの健康に影響しないはずがありません。

 腸内細菌は大きく三つに分類されます。一つ目は「善玉菌」と呼ばれるグループで、乳酸菌やビフィズス菌、納豆菌がよく知られています。二つ目は「悪玉菌」で、大腸菌やブドウ球菌、ウェルシュ菌などがあります。三つ目は「日和見菌」で、腸内環境によって善玉にも悪玉にもなります。

 生きた善玉菌を摂取することを「プロバイオティクス」といいます。また、善玉菌の餌になるものを摂取することを「プレバイオティクス」といい、オリゴ糖や食物繊維が餌にあたります。善玉菌を増殖させて悪玉菌の活動を抑え、腸内環境を整える働きがあるそうです。

 腸の中を顕微鏡でのぞくと、まるで植物が群生している「お花畑」のように見えるそうです。英語でお花畑をフローラと呼ぶので、「腸内フローラ」と名付けられました。

 腸内フローラと切っても切れない関係にあるのが大便です。大便には、消化されなかった食べ物、はがれた腸壁の細胞、そして腸内細菌とその死骸が含まれます。半分は腸内細菌で、1回の大便で約20兆個の細菌が放出されます。それを調べることにより、体の中のことがいろいろ分かるようになってきました。

腸内フローラを咲かせる食生活
川崎医療福祉大学臨床栄養学科助手 青木孝文


 食生活が腸内フローラにもたらす影響についてお話しします。キーワードは「プレバイオティクス」と「プロバイオティクス」、そしてもう一つ大事なのが「シンバイオティクス」です。

 プレバイオティクスとは、腸内フローラの餌(栄養)になる、消化吸収できない難消化性の食物成分のことです。よく耳にするものでは、食物繊維やオリゴ糖などです。

 腸内フローラはプレバイオティクスを利用し、おなかの中で発酵を起こします。その結果、善玉菌が元気になって増え、悪玉菌が減ります。病原菌などから体を守る免疫力を高め、栄養の吸収を促進させ、病気の予防に役立ちます。

 一方、食事によって悪くなる場合もあります。プレバイオティクスが少ない食事、つまり野菜が少なくて脂質が多い偏った食事をとると、発酵ではなく腐敗が進みます。すると、発がん物質のような有害物質が作られます。発酵とは逆に、悪玉菌が増えて善玉菌が減り、病気にかかりやすくなってしまいます。

 では、何を食べればよいのでしょうか。一つはイモや野菜、海藻、果物、豆、キノコ、穀物、すなわちプレバイオティクスの多い食べ物です。もう一つはヨーグルトや納豆、ぬか漬け、みそなどの発酵食品です。生きた善玉菌、フローラそのものを食べるプロバイオティクスに当たります。

 大切なのは二つを一緒に食べる「シンバイオティクス」です。主食と主菜、副菜が2品、果物、発酵食品を毎日食べる食事です。大変なようですが、簡単な方法があります。例えば、ごまあえを作ったり、果物を間食したり、納豆やモズク酢などの加工食品を取り入れたりしてください。ほんの少しの手間で食生活を変えてみましょう。

腸内フローラを咲かせて楽しい人生を
川崎医療福祉大学健康体育学科教授 矢野博己


 腸内フローラを咲かせられなかったら、どんな困ったことが起こるのでしょうか。

 私たちは多くの病気に取り囲まれています。心臓や血管の病気、おなかの病気、メタボリックシンドローム、高血圧症、がん、認知症、筋肉の衰えに気分の落ち込み…。腸内フローラはこれら全ての病気と関係している、または関係している可能性があると言われています。

 例えば、心臓や血管の病気の原因になる動脈硬化を悪化させる腸内フローラがあることが分かってきています。逆に動脈硬化を抑えてくれる腸内フローラも報告されています。「どんな薬でも治らなかった腸炎が治るお話」もあります。腸内フローラを使った画期的な方法がすでに実践されています。

 こんな腸内フローラだと太りやすいという「デブ菌」や、逆の「ヤセ菌」があることも分かってきました。腸内フローラからの指令が食欲をコントロールしているとする研究者もいるくらいです。

 脳と腸内フローラの関係を見てみましょう。腸と脳は血管と神経によってつながっています。これらを伝って腸内フローラが脳に影響を及ぼしているようです。ストレス、服薬、食事、遺伝、加齢などが関わり、腸内フローラが良くない方向へ変化すると、記憶障害、認知症、うつ、ストレスに対する過剰反応、社会的不適応や孤立感などが引き起こされるともされています。

 脳と腸内フローラ、つまり腸内細菌はつながっているのです。腸内フローラを咲かせるには、食事も運動も大切です。そして“腹の虫”である腸内細菌のご機嫌を損ねないようにすることも大事だということになります。

腸内フローラを咲かせる運動習慣
川崎医療福祉大学健康体育学科准教授 松生香里


 「運動で腸内環境は良くなるのでしょうか?」

 多くの方がこのような疑問を抱くと思います。近年、運動と腸内細菌に関連する多数の研究成果が発表されています。

 アスリートは、一般人よりも多種多様な腸内フローラを持っていることが分かっています。トレーニングが好きな自転車選手の腸内には、食物繊維を分解する「プレボテラ」という細菌がたくさんいるといわれます。怠けている選手はこの細菌が少ないようです。

 また、エリートのマラソン選手の腸内フローラをマウスのおなかに移植したところ、マウスの持久力がアップしたという研究結果が昨年、報告されました。

 生活習慣病の予防には運動が必要だと言われますが、腸内環境の改善・強化にも運動が役立つことが分かってきました。運動は、食物から摂取した栄養を効率よく体内に吸収する腸管の働きを良くします。中高年の方に腹部を意識した運動を続けてもらうと、便通の改善がみられました。

 日常生活に運動を取り入れ、腸内環境の改善に役立ててもらおうと、私たちは「みんなで健腸体操」をつくりました。楽しく体を動かしながら、すてきな腸内フローラを咲かせてください。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年02月03日 更新)

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