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(6)口腔ケアチーム 倉敷中央病院歯科主任部長 窪田稔

病棟の看護師と入院患者の口腔ケアについて情報共有を行っている口腔ケアチームの歯科衛生士(右から2人目)

窪田稔歯科主任部長

 病はお口から―と言われます。口腔(こうくう)はいろいろな病原微生物の感染経路としてとても重要です。口腔内細菌といって、成人の口の中には600種類以上(歯垢(しこう)1ミリグラムには1億個以上)の細菌が生息しています。

 口腔が不健康だと細菌も増殖して、誤嚥(ごえん)性肺炎や細菌性心内膜炎、敗血症などさまざまな全身の病気のリスクを高めます。また、脳卒中やパーキンソン病などの病気や加齢によって咀嚼(そしゃく)や嚥下の機能、せきをする力が衰えると、口腔内細菌や食物・逆流した胃液が誤って気管に入りやすくなり、誤嚥性肺炎の発症につながります。

 誤嚥による窒息・誤嚥性肺炎の予防のため、鼻からの管や胃ろうで栄養摂取を行うことがありますが、口から食べないことで口腔の自浄性が低下して衛生状態が悪化しやすく、ますます細菌が増殖します。

 全身麻酔手術後にも、嚥下機能の低下や痛みでせきがしづらくなるため、肺炎を起こすことがあります。人工呼吸器関連肺炎といって、呼吸を助ける人工呼吸管理の期間が長引くと、合併症として肺炎が起きることもあります。

 口腔ケアとは、一言でいえば口腔健康管理のことです。むし歯や歯周病の予防を目的として習慣的に行っている、うがい、歯磨き、入れ歯の清掃といった「清掃を中心とするケア」と、咀嚼機能や嚥下力を高めるための「機能訓練を中心とするケア」の両方を意味します。「清掃を中心とするケア」にはセルフケアと、セルフケアが困難な入院患者さんに対して歯科医師や歯科衛生士が行う専門的口腔ケアがあります。

 口腔ケアを継続して歯や口腔を清潔にすることが、誤嚥性肺炎や人工呼吸器関連肺炎の予防に有効であることが明らかになっています。グラフ1は、当院で食道がん、あるいは胃がんの手術を受けた患者さんについて、手術前から専門的口腔ケアを受けた方が、受けなかった場合より手術後の肺炎発症が少なかったことを示しています。入院患者さんにとって、口腔ケアは病気からの早期回復を支援する大切な医療なのです。

 私たち口腔ケアチームは、口腔衛生状態が不良である▽人工呼吸管理中である▽嚥下障害がある―など、肺炎発症リスクのある患者さんに対して、歯科衛生士による早期の口腔ケア開始を目指しています。そして、各病棟スタッフや他の専門医療チームとの連携によって入院患者さんの口腔機能の維持・回復を図り、退院に向けて早く口から食べられるよう支援することを目的として活動しています。

 患者さんは、入院時から病院全体で統一された方法で、看護師による口腔内環境の評価を受けます。OHAT―J(メモ)という評価ツールを活用し、問題ありと判断された場合に早期の口腔ケア介入が可能となるよう、口腔ケアチームとの連携体制をとっています。

 口腔ケアチームのスタッフは、歯科医師2人、歯科衛生士3人、看護師1人という構成です。活動を開始して2年目になりますが、当院では高齢あるいは病気が重症の患者さんが非常に多いため、口腔内環境の改善は容易ではありません。そのため、病棟の看護師と定期的なカンファレンスを行い、口腔に関する問題点やケア方法を共有して質の高い口腔ケアの提供に努めています。グラフ2は、入院患者さんへの口腔ケア介入後に口腔内環境の改善が認められたことを表しています。

 私たちは、これからも口腔の専門医療チームとして、口腔内環境の改善が必要な入院患者さんに対して積極的な介入を展開し、早期回復・早期退院に向けて貢献できるよう活動していきたいと考えています。

     ◇

 倉敷中央病院(086―422―0210)

 くぼた・みのる 長野県立長野高校、東京医科歯科大学歯学部卒。同大大学院歯学研究科修了。同大歯学部附属病院を経て1987年から現職。日本有病者歯科医療学会専門医・指導医、インフェクションコントロールドクター。

メモ

 OHAT―J Dr.JM Chalmersらによって作成された口腔評価用ツール「OHAT」(Oral Health Assessment Tool)を、藤田医科大学の松尾浩一郎教授が和訳したもの。口唇や歯肉、唾液、残存歯などの状態によって評価する。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年02月17日 更新)

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