文字 
  • ホーム
  • 岡山のニュース
  • 田中教授(長崎ウエスレヤン大)自立支援法案で講演  岡山・建部 転換期の精神障害者福祉 病院から地域中心へ 受け皿づくりが急務

田中教授(長崎ウエスレヤン大)自立支援法案で講演  岡山・建部 転換期の精神障害者福祉 病院から地域中心へ 受け皿づくりが急務

田中英樹教授

 身体、知的、精神の三障害の福祉サービスを一元化する「障害者自立支援法案」が今国会に再提出された。成立すれば来年四月の施行。他障害に比べ福祉が立ち遅れてきた精神障害者には新法を評価する声がある一方、自己負担の増加などの心配もある。長崎ウエスレヤン大社会福祉学科の田中英樹教授が九月中旬、岡山県建部町で行った講演から、新法の問題点や、病院中心から地域中心の展開へ転換が迫られている精神障害者福祉の状況について紹介する。

 精神障害は、二〇〇三年度に身体、知的障害を対象に始まった支援費制度の枠外に置かれていた。新法で他障害と同等に福祉サービスの選択の幅が広がる期待がある一方で、受けたサービスの原則一割の料金を支払う定率負担(応益負担)が導入されることになる。

 田中教授は、応益負担をグループホームなどにそのまま当てはめると、生計が赤字になる対象者が出てくる点を指摘。「障害者福祉はもともと所得に応じて支払う応能負担。高齢者のように貯蓄する機会すらない障害者が大半の中で介護保険と同じように応益負担を導入するのはどうか」と疑問を唱えた。

 身体、知的障害が支援費制度で市町村が実施主体になったのに対し、精神障害の福祉サービスは、市町村と都道府県に分離。自立支援法では精神障害も市町村に一元化されるようになる。

 田中教授は、より身近な市町村が主体となることを評価。市町村ごとにサービス量の目標を定める「障害保健福祉計画」の策定が義務づけられることなどを挙げ、「精神保健福祉は、取り組みに熱心でない市町村もあったが、そうはしていられなくなる」と強調した。

 だが、精神障害の場合、病気としてのとらえ方が強いため、医療に比べ、福祉は立ち後れてきた経緯がある。

 厚生労働省によると、精神病床の入院患者約三十二万人のうち、受け入れ条件が整えば退院可能な「社会的入院」は約七万人と二割強に上るとされる。退院に向けては、偏見が根強い中での住居や雇用の確保、生活習慣を身につける生活訓練の場などが必要だが、現状は整っているとは言えない。

 「社会復帰施設は全国の自治体のうちで二割くらいしか持っていない」と田中教授。「精神病院改革のデザインの具体化が遅れている上に国は施設を新しく造ることは抑えようとしている」と受け皿の不足を指摘した。

 入院を減らし、地域で支援する施策が以前から進んでいる欧米諸国に比べ、日本は精神病床がいまだに多い。

 「自立支援法は決して十分ではない。これをどうプラスに切り替えるか」と田中教授。法律で入院期間を定めているニュージーランドなどの例を紹介しつつ「新法を機に、地域を中心とした支援や医師ら専門職主導ではなく、当事者本位のサービス供給システムへ転換していくことが重要」と訴えた。


 たなか・ひでき 1972年から川崎市リハビリテーション医療センター、同市幸保健所などに勤務。佐賀大助教授を経て、2002年4月から現職。精神保健福祉士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2005年10月04日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ