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ヒトES細胞から肝細胞 岡山大グループ 来月にも着手 人工臓器応用へ

 岡山大大学院医歯薬学総合研究科の田中紀章教授(消化器・腫瘍(しゅよう)外科学)と小林直哉助手らのグループは十八日、どんな細胞にも成長できるヒトの胚(はい)性幹細胞(ES細胞)から肝臓細胞を作り出す基礎研究に、十一月にも着手すると発表した。将来的には、臓器移植でしか根治できない肝不全患者などを対象に開発中のバイオ人工肝臓に応用する。

 計画では、タンパク質の一種で、肝臓の再生などに重要な役割を果たす高濃度の肝細胞増殖因子(HGF)とES細胞を、新たに開発した特殊な薬品と布を使った「足場」で培養する独自の方法で実施。ES細胞は、国内で唯一、作成を認められている京都大再生医科学研究所から提供を受ける。

 同グループは既に、今回と同じ方法でマウスのES細胞から肝臓細胞をつくり出すことに成功。この肝臓細胞を使った人工肝臓で、肝不全を起こさせたマウスの治療効果を実証している。

 ヒトのES細胞から肝臓細胞をつくり出す研究は国内外の一部機関で行われているが、「成功には至っていない」(小林助手)のが現状。ウイルス性肝炎などが進行した肝不全の根治には臓器移植しかないが、年間約三万人が発症し、ドナー(臓器提供者)不足が深刻化している。

 小林助手は「これまでの基礎研究を基に二年以内に肝臓細胞づくりを実現させ、毒素の分解能力などを検証したい」とし、「将来的には体外型の人工肝臓の中に肝臓細胞を入れ、機能を確かめる臨床研究を目指す」としている。

 ES細胞に関する研究は、受精卵を使うため倫理的な問題が指摘され、研究実施には文部科学省専門委員会の審査が必要。学内の倫理審査委員会を経て、九月に同専門委員会に承認された。九月末現在、岡山大を含め、全国十施設で血管内皮細胞や造血幹細胞の作成など二十五計画が承認されている。


ズーム

 ES細胞 受精卵の分裂途中で一部を取りだしたもの。神経や心筋など、さまざまな組織や細胞に分化する可能性があることから万能細胞といわれ、傷んだ臓器や組織を修復する「再生医療」の切り札とされている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2005年10月19日 更新)

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