文字 

アスベスト健康被害 潜伏長く将来患者急増も 禍根残さぬよう対策が急務

健康被害が発覚した三井造船玉野事業所に調査に入る玉野労基署職員=7月26日

 アスベスト(石綿)による健康被害の問題が、岡山、広島、香川県内でも影を落としている。全国でアスベストを使用していた工場労働者や周辺住民の、肺がん・中皮腫による死者が次々と表面化。潜伏期間が長いため、将来の患者の急増も予想され、救済に向けた対策が急務となっている。

 「作業当時は、アスベストが危ないとは全く思わなかった」。二年前、中皮腫と診断された岡山県東部の男性=七十代=は話す。

 二〇〇二年春、激しいせきに襲われ、地元の病院に入院。息苦しさや発熱などが続き、病名を告げられないまま入退院を繰り返した。〇三年秋、岡山市内の病院で中皮腫と診断された。

 男性は一九五七年からほぼ三十年間、耐火れんがの会社で勤務。うち十年ほどは、れんが窯の近くで作業した。「窯の配管を耐熱用に覆っていたアスベストを吸っていたのかもしれない。古い窯を壊す時、全身が真っ白になった」

 手術で左肺を除去。職業歴と、アスベスト特有の医学的な所見が確認され、労災認定された。

 「命があるだけありがたい」。男性は神妙な面持ちで話す。

推計8万5千人

 アスベストによる健康被害をめぐっては、大阪市の大手機械メーカー「クボタ」が六月下旬、退職者や出入り業者ら七十九人が、中皮腫などで死亡したと公表。家族や工場周辺の住民被害まで発覚したことから、社会不安が一気に高まった。

 岡山県内でも三井造船玉野事業所(玉野市玉)で元従業員ら十二人が死亡。中国電力の旧三蟠発電所(岡山市江並)で二人が死亡していたことなどが判明した。

 厚生労働省の人口動態統計によると、中皮腫による死者(九五~〇四年)は、岡山県百六十八人、広島県二百七十七人、香川県六十四人。肺がんと合わせた労災認定(療養中含む)は、岡山が九二年度~〇四年度で四十八人、広島(九五年度~〇四年度)三十五人、香川(同)十七人に上る。

 アスベストは、耐火性や腐食に強いことから、ボイラーやスチームの被覆、住宅の断熱材などに幅広く使われてきた。このため、健康被害はアスベスト製品の製造企業のほか、加工して使う造船や自動車、建設業者など多岐にわたる。岡山県では、建設業の零細個人事業主のほぼ二十人に一人が中皮腫などのリスクを抱える「要注意者」であることが、岡山労災病院の岸本卓巳副院長らの調査で分かっている。

 アスベストの国内輸入量は七〇年から八〇年代がピーク。しかし、潜伏期間は二十~四十年もあり、国は今後の肺がん・中皮腫の発症者を最大八万五千人と推計している。

補償焦点に

 こうした中、焦点になるのが補償問題。退職後に発症するケースが多いため、これまでは仕事との因果関係を患者が認識しなかったり、医師の見落としなどで労災申請に至らないケースが多いとみられている。「死後五年」という時効の壁も遺族の労災申請を阻み、家族や周辺住民は補償の対象外だ。

 国は現在、療養手当や一時金支給など患者・遺族の救済を盛り込んだ特別立法を検討中。来年の通常国会に提出される見通しだが、財源確保など課題は山積する。厚労省の研究班長も務める岡山労災病院の岸本副院長は「カルテが残っていないなどで、病気とアスベストとの関連の医学的裏付けが難しい面もあるが、これまで多くの患者を見逃してきた以上、補償の基準を緩和する必要がある」と指摘する。

 また、アスベストを使った古いビル、住宅の解体が今後ピークを迎えるため、国は解体時の飛散防止策などを業者に定めた新たな規則を七月に施行した。だが、コスト高などがネックとなり、どこまで徹底されるかは不透明だ。

 海外と比べ、国内の規制の遅れも指摘されるアスベスト問題。未来に禍根を残さないよう、徹底した対策が求められる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2005年10月24日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ