文字 

第13回 小児整形外科の三大疾患 旭川荘療育センター療育園 小田浤院長 先天股脱治療 股関節症防ぐ 筋性斜頸9割 自然治癒

おだ・こう 1966年、岡山大医学部卒。西ドイツ・ケルン大整形外科助手、岡山大医学部付属病院整形外科助教授、旭川荘旭川療育園園長などを経て2006年から旭川荘療育センター療育園院長。日本整形外科学会専門医・代議員。川崎医療福祉大リハビリテーション学科特任教授。

1歳未満児のエックス線撮影画像。向かって右側(左股)の股関節が脱臼している(小田院長提供)

 先天性股(こ)関節脱臼(先天股脱)、内反足(ないはんそく)、筋性斜頸(しゃけい)は、小児整形外科の三大疾患と言われてきた。旭川荘療育センター療育園(岡山市北区祇園)の小田浤院長(整形外科)に、先天性股関節脱臼を中心に治療法などを聞いた。

 ―先天性股関節脱臼の原因は。

 赤ちゃんはお母さんのおなかにいるとき、一般的には膝(ひざ)を抱っこしたような丸い形なんです。ところが、膝が伸びたままいる子もいるらしいんです。そうした体内での肢位(しい)(下肢の位置)が原因じゃないかとか言われていますが、はっきりとは分かりません。

 先天性股関節脱臼は英語では「congenital(コンゲニタル=先天性の) dislocation of the hip joint」と言いますが、「congenital」なら、なぜ子どもが生まれたときに言わないのかと、米国で訴訟が起きたらしいです。だから近ごろは「developmental(デベロップメンタル=発達性の) dislocation of the hip」とも言う。発達性なので、いつ脱臼したか分からないというわけです。

 ドイツでは「sogenannte(ゾーゲナンテ=いわゆる)」という言葉を付けて「いわゆる先天性の…」という言い方をします。

 つまり、呼び名からしてまだまだはっきりとしておらず、本当に先天性かどうかの実証もされてはいません。

 ―どのようにして見つかりますか。

 あなた脱臼なさったことはありますか? 外傷性の脱臼は、整復する(脱臼が正常な状態に戻る)までは骨折よりも痛いそうです。ところが先天性股関節脱臼は痛くない。痛かったら赤ちゃん、泣きますよね。

 最初から整形外科に来る例は少ない。この子のお姉ちゃんが先天性股関節脱臼だったので心配で来た、という方はおられましたが。多くは、産婦人科や小児科あるいは保健所の健診で、生後1週間とか10日、3カ月の健診を受け、指摘された後で来られます。

 診断は主に、生後3カ月までに見つかる開排制限(かいはいせいげん)(股関節の開き具合が悪いこと)と、クリックサイン(股関節を開いたり閉じたりさせたときの触感)で行います。

 クリックサインは一発勝負です。赤ちゃんにとっては、知らない人が、それも奈良の大仏さんがすぐ目の前にいるようなものですから、泣いて力を入れだすと触診できない。おなかをさすりながら、機嫌の良いときにちょっとやる。それがこつです。要は情報をいかに得るかということです。

 診断の結果、もし必要であれば治療に入ります。

 ―治療法は。

 いろいろ議論のあるところですが、私どもは、脱臼の場合はリーメンビューゲルという装具を4カ月間かけます。ただし、10人のうち8人はうまくいくのですが、うまくいかなければ2週間しか頑張らないことが重要です。造影検査の結果、手術が必要になる場合もあります。

 生後3カ月で診断がついたとして、普通の経過を言うと、装具を生後7カ月までかけるわけです。装具を外して調子はどうかと、8カ月目に一遍診せてもらう。歩きだしたころにもう一遍です。後は1年ずつで、3歳ぐらいになって調子が良ければ、次は就学時、それから中学生になったころ、進学・就職で遠くに行くから高校を卒業する前にも診せてくださいと言います。18歳までは追跡したいということです。

 たとえ症状がなくてもエックス線撮影で股関節を診ると、正常な人と比較すれば、やはり良くないのです。治った治ったとは決して言えない。年を取ってから痛くなる可能性がある。なぜ脱臼の治療をするかというと、うまく治して変形性の股関節症をつくらないためです。治療っていうのは何でも目的があるでしょう。

 ―予防法があれば。

 赤ちゃんを抱っこする「スリング」が今はやりですね。整形外科医の立場から言って、良い使い方なら結構ですが、赤ちゃんの下半身をすっぽり包んでしまう抱き方は、ちょっと困ったファッションだと思います。下肢を自由に動かせるということが大事です。

 ―内反足はどのように見つかりますか。

 生後3カ月の健診でどうのこうのというのではなく、生まれてすぐ一目瞭然(りょうぜん)です。内反(かかとが内側に傾く)、内転(足の前半分が内側に曲がる)、尖足(せんそく)(足の先が下がっている)の三つが要素です。

 治療法ですが、私は内反、内転というものを、まず徒手矯正(医師が足の形を矯正する)で一気に治します。それからギプス固定の後、生後4カ月半のころに手術でアキレス腱(けん)を延長します。そしてギプスを巻き、後は小学校に入るまでは寝るときに装具を付けます。デニスブラウンという装具を使っています。

 ―筋性斜頸は、首の左右にある胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとっきん)の一方が固く縮んで頭部が傾く疾患ですね。

 生後2、3週で首にしこり(肉芽腫(にくげしゅ))が見つかります。赤ちゃんを入浴させていて触ると何かある、おかしいよ、という具合です。ただし、これは良いことに9割ぐらいは自然に治るんです。手術では胸鎖乳突筋を切りますが、手術になる例は少ないです。

 ―患者である子どもたちは日々成長していきます。

 最初のころの患者さんで40歳ぐらいになられた方もいます。僕はこれまで3人の患者さんの結婚式に主賓で呼ばれて行きました。そういう席で病気のことは言うべきではないので、ちょっと当惑もしましたが、医者冥利(みょうり)に尽きるというか、そんな思いです。

病のあらまし

 先天性股関節脱臼は関節包(関節の袋)に包まれたまま、大腿(だいたい)骨頭が寛骨臼から外れた状態をいう。股関節は体重を支える大切な関節なので、脱臼をうまく治療しておかないと将来、変形性股関節症を発症することが多く、痛みや歩行困難を起こす恐れがある。

 発生率は1960年代には1000人に20人だったが、最近では1000人に1人といわれる。暖房設備の普及など乳児が下肢を自由に動かしやすい環境になったことなど、生活様式の変化が影響しているとみられる。男女比は男子1に対し女子が4ないし5とされ、女子に多い。また、右股よりも左股に多いという。

 治療に用いるリーメンビューゲルは、あぶみ式吊(つ)りバンド装具で、股関節を伸ばす動きを制限しながら自力で脱臼を整復させる。治療法には、下肢を牽引(けんいん)する療法もある。手術は、岡山大で開発された広範囲展開法(関節包を全周にわたって切除する)などの方法がある。

 内反足の原因は明らかでない。発生率は1000人に1人といわれ、男子に多い。治療は徒手矯正とギプス固定、装具療法、手術によって行う。

 筋性斜頸は、片方の胸鎖乳突筋にしこりができ、しこりのある方に首を傾け、顔はその反対側を向く。自然治癒傾向の強い疾患だ。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年04月19日 更新)

ページトップへ

ページトップへ