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脳卒中治療阻む壁 医療、救急態勢に課題 血栓溶解薬は迅速な受診必要 知識不足も一因

木村和美教授

 日本の死因で、がん、心臓病に次いで多いのが脳卒中。その大半を占める脳梗塞(こうそく)はある程度治療可能になってきた。しかし病気に関する知識不足から病院に行くのが遅れたり、医療や救急の態勢が十分でなかったりして、スムーズな治療が実現していない実態もある。

 人口動態統計によると、2008年に脳卒中で亡くなった人は約12万6千人。脳卒中は脳の血管が詰まる脳梗塞と、脳の血管が破れる脳出血とくも膜下出血に大別される。脳梗塞は脳卒中全体の約7割を占める。

効果発揮できず 

 05年、脳血管に詰まった血の塊を溶かす血栓溶解薬「tPA」が保険適用になり、治療が前進した。臨床試験では、tPA治療により、患者の社会復帰が1・5倍になるとの結果が出ている。

 しかし現状では、その効果が十分に発揮できていない。tPA治療は発症から3時間以内に始めなければならないのだが、3時間以内に病院に来る人は患者全体の3割にとどまっているからだ。

 社団法人日本脳卒中協会の中山博文専務理事は「tPA治療には除外規定があって受けられない場合がある。さらに家族の同意も必要なので、受けている人は全体の2%。早く来る人が増えれば、この治療を受けられる人も増える」と話す。

判定表 

 病院に行くのが遅れるのは、一般市民に脳卒中の知識が乏しいことや、救急と病院の態勢に原因がある。

 治療までの時間を短縮するため、倉敷市消防局は患者を運ぶ途中、脳卒中かどうかや症状の程度を簡便な判定表を使って判断している。

 この判定表を考案した川崎医大病院(同市松島)の木村和美教授(脳卒中科)らが昨年実施した調査によると、全国の消防本部で同様の判定表を使っているのはわずか15%。「tPA治療のできる病院を把握している」と答えたのも約60%にとどまっている。

 tPA治療ができる病院は限られている。木村教授らが07年に約4700病院を調べたところ、発症間もない急性期の患者を受け入れている病院は全体の3割だった。

 その半数は専門医が2人以下。24時間態勢でtPA治療ができる病院は全体の1割程度だった。

専門医不足 

 急性期患者を受け入れていると答えた1466病院を昨年再調査すると、回答した950病院のうちtPA治療ができる病院とできない病院は、ほぼ同数だった。

 07年からの1年間でtPA治療ができるようになった病院が29あった半面、45の病院が逆にできなくなっていた。木村教授は「原因は専門医不足。医師の増員が最も大切だ」と語る。

 当面の対策として木村教授は、携帯テレビ電話を使う遠隔医療システムを提案している。専門医と、患者を受け入れた病院の医師が携帯電話でやりとりしながら治療を進めるという構想だ。

 中山さんは「tPAが使えない場合でも早く専門病院に来れば、脳梗塞の拡大を防いだり、合併症を予防したりすることで後遺症が減る」と早期治療の重要性を訴える。


岡山県で超急性期の専門的診療が24時間可能な医療機関

 岡山医療センター、岡山市民病院、岡山赤十字病院、岡山大病院、川崎病院、岡山旭東病院、岡山労災病院、岡山東部脳神経外科岡山クリニック(以上岡山市)川崎医大病院、倉敷中央病院、倉敷平成病院(以上倉敷市)金田病院(真庭市)津山中央病院(津山市)

 (岡山県への届け出、6月30日現在、「発症後3時間以内にtPAの静脈内投与による血栓溶解療法が実施可能であること」などが要件)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2009年07月06日 更新)

タグ: 脳・神経脳卒中

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