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<断面 2005広島県知事選>慢性的な医師不足 過疎地医療 県、大学一体で派遣を

お年寄りの診察に当たる渡辺医師(右)。地域から大きな期待が寄せられている=庄原市口和診療所

 今年三月。広島大学病院(広島市)に勤務していた渡辺将史医師(31)は、口和診療所(庄原市口和町)の三代目所長として中国山地の山あいの町にやってきた。

 看護師、事務スタッフ四人のへき地診療所。前任者が県南での開業に伴って二〇〇四年三月末に退職。〇五年二月までは近隣病院から日替わりで応援を受けて診療を維持し、ようやく後任を探し当てた。近くの原田花子さん(86)は「足が痛くて遠くの病院には通えない。先生が頼り」と喜ぶ。市口和支所保健福祉課の宗藤重穂課長は「手を尽くしたが後継者が見つからず本当に苦労した。常勤医が来てくれ一安心」と胸をなで下ろす。


市部に偏在

 山村や離島といったへき地は、生活面や最先端の研究から取り残される不安から敬遠され、慢性的な医師不足に悩む。県内の医師六千七百四十三人(〇二年十二月時点)のうち87・4%が市部に集中。郡部は一割余りにとどまり、半径四キロ以内に五十人以上が暮らしながら容易に通える医療機関がない県内の無医地区は、北海道に次ぐ五十六カ所。都市偏在が解消する気配はない。

 脆弱(ぜいじゃく)なへき地の医療体制強化に向け、県は〇一年十二月、県へき地医療支援機構を設置。サポートに当たる拠点病院七カ所を順次指定し、へき地診療所への代理診療医の派遣や無医地区での巡回診療に取り組み、地域医療をバックアップする。口和診療所の常勤医不在期間をカバーしたのも同機構による調整だった。

 県立神石三和病院(神石高原町)の竹内啓祐院長は「支援機構はへき地医療を支えるシステムとして機能し成果を挙げている」と手応えを感じながらも「臨床研修の必修化で後方支援に当たる中核病院の人手不足が深刻化している。今後のサポートに支障が出かねない」との危機感も抱く。


奨学金を提言

 県医師会と広島大、県などでつくる県地域保健対策協議会(県地対協)の二月の調査では、県内の88%の病院が医師不足を感じていると回答。庄原赤十字病院(庄原市)では定年退職した産婦人科医を補充できず、四月から出産対応を休止。県立神石三和病院では広島大からの神経内科医の派遣(月二回)が九月から打ち切られ、へき地診療所でも三次市立横谷診療所が昨年六月末、閉鎖に追い込まれた。

 へき地医療機関に勤務すれば返還を免除する奨学金制度を〇二年度に設けるなど医師確保に力を注ぐ島根県などに比べ、対策が遅れ気味だった広島県。県地対協は十月末、医師不足解消策をとりまとめ、奨学金制度をはじめ、県職員として医師を採用し過疎地に供給する「ドクタープール制」の創設などを提言した。

 庄原市保健医療課の大庭俊造課長は「県や大学が一体になって一刻も早く実行に移し、地域医療を担う人材養成を急いでほしい」と期待を寄せる。地域全体への良質な医療提供体制の整備は都道府県の役割とされる。来年度に向け、新知事の姿勢が早速問われることになる。

ズーム

 臨床研修の必修化 新人医師を対象に2004年度に導入。出身大学を中心に専門に偏っていた従来方式を見直し、2年間で救急や小児科、産婦人科などを経験し幅広い診療能力を養う。旧制度下では研修医の約7割が大学病院に集まり医局を下支えしたが、来年4月に医師になる医学生の研修先は指定病院へのシフトが進み大学病院48%。地方の大学病院は人手不足に陥り、地域への医師派遣打ち切りが相次いでいる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2005年11月03日 更新)

タグ: 医療・話題

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