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生きる力の回復目指す岡山療護センター 設置者の自動車事故対策機構・濱隆司理事長インタビュー

「自動車事故の後遺症で苦しむ患者さんやご家族のための支援制度があることを知っていただきたい」と話す自動車事故対策機構の濱隆司理事長

常に医師や看護師の目が届く大部屋の病棟で手厚い医療・看護を提供している岡山療護センター

 交通事故による死者・負傷者は近年減り続けているものの、脳や脊髄などに重度の後遺障害を負い、生活が困難になる人はほぼ横ばいで推移している。岡山療護センター(岡山市北区西古松)はこうした患者を受け入れ、24時間体制で治療・看護を提供する専門の医療機関だ。設置者として、3月に同センターを視察した独立行政法人自動車事故対策機構(東京)の濱隆司理事長(60)に、機能回復に力を入れているセンターの特徴や、患者家族に対する支援策について尋ねた。

 ―岡山療護センターは全国3番目にできた専門病院だそうですね。

 西日本各地の要望を受け、1994年2月、50床の病院として開設しました。自動車事故対策機構の療護施設は、独立した病院である療護センターが岡山をはじめ全国4カ所、各地の総合病院の院内に設置する委託病床が7カ所にあります。岡山療護センターは、岡山済生会総合病院も運営する岡山県済生会に委託し、手厚い治療と看護、リハビリを行っています。

 岡山療護センターでは、昨年末までに439人が入院し、うち170人が一定の意思疎通や運動機能の改善がみられる状態まで回復して退院しました。回復した割合は全国の療護施設の中でも高く、大きな成果を上げています。

 ―看護体制にはどんな特徴がありますか。

 大部屋のワンフロア病棟システムを採用しています。病床の仕切りを最小限にとどめ、患者1人に対し看護師1・3人がつく充実した体制を組み、同じ看護師が継続して1人の患者を受け持つプライマリー・ナーシング方式が原則です。意識レベルの低い状態の患者さんでも、わずかな意識の回復の兆しを捉えられるよう、看護師は常に患者の様子を観察しています。

 ただ、感染症防御も重視しており、万が一の事態を想定して個室を整備するなど、機構としても対策を講じています。

 ―脳神経外科領域を中心に、最新の検査・治療機器がそろっていますね。

 SPECT―CT、3・0テスラMRI、320列CTなど高性能の画像診断装置や、酸素を体内に取り込んで組織を修復する高気圧酸素治療装置などを用いた先進的な治療に取り組んでおり、岡山大学からも専門医の派遣を受けています。

 事故に遭ったときの年齢が若く、早くリハビリを開始するほど、回復しやすい傾向があります。現在は岡山療護センターの病床にも余裕があるので、要件に当てはまる方はぜひ、利用を考えてみてください。医療機関からの紹介があれば、一般の方もセンターの医療機器を使った検査を受診することができます。

 ―在宅で介護を受ける患者や家族への支援策はありますか。

 日常生活において常時または随時の介護が必要な方に、状態に応じて月額約3万6千円から約21万1千円の介護料を支給する制度があります。受給者のご自宅を訪問し、悩みや困りごとの相談も受けています。住宅のバリアフリー化には多額の費用がかかり、早く制度を知りたかったといった声もお聞きします。もっと制度が普及するよう、努力したいと思います。

 死亡または重度の後遺障害を負った方の子どもを対象に、生活資金を無利子で貸し付ける制度などもあります。

 ―事故の被害者支援だけでなく、ドライバーが加害者にならないように、安全運転を推進する業務もありますね。

 私たちは自動車事故対策の専門機関として、全国50の支所を持ち、事故被害者の支援と事故防止を一体的に実施しています。岡山支所は県トラック総合研修会館(岡山市北区青江)にあります。

 運転に関する長所・短所をさまざまなテストで見いだす適性診断を実施しており、それぞれのドライバーの癖に応じたアドバイスを提供し、事故防止に役立ててもらっています。バスやタクシー、トラックなど事業用自動車を運転するドライバーだけでなく、営業車などを運転するサラリーマンらにも利用していただいています。

 ―車両の安全性を評価するテストにはどのようなものがありますか。

 市販されている自動車を使うテストによって、安全性能を評価するアセスメント事業を行っています。衝突安全性能ではダミーを乗せた試験車を壁などにぶつけ、予防安全性能では自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)やライトなどの機能を確かめ、チャイルドシート安全性能でも市販製品の衝突試験などを実施しています。結果はホームページやパンフレットで公表しています。

 ユーザーは、結果を参考にして安全な自動車を選んでいただき、事故の減少につながればよいと願っています。また、メーカーもより安全な自動車の開発に取り組み、普及が進むことを期待します。

 今後も積極的な広報活動を展開し、私たちの事業を知っていただき、安全安心な社会づくりに貢献したいと思います。岡山の皆さんも、交通事故の後遺障害で困っていたり、交通安全対策で分からないことがあれば、気兼ねなく私たちにご相談ください。

重度後遺障害の患者ら受け入れ

 岡山療護センターへの入院は、自動車事故で脳損傷を受け、重度の後遺障害がある人のうち、一定の要件に該当することが条件になる。手足を動かしたり、食べたり、排せつしたりする機能の障害の程度を点数にして判定する。実際には、呼び掛けても反応がない状態の人も少なくない。

 岡山は西日本唯一の療護センター。50床の病床では、中国地方を中心に、近畿や四国からも多くの患者を受け入れている。脳神経外科、外科、麻酔科、リハビリテーション科の専門医5人をはじめ、看護師、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士、薬剤師、診療放射線技師、臨床検査技師、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーら約100人の体制で、「生きる力の回復」を目指して治療と看護、リハビリに取り組んでいる。

 患者が少しでも自力で手足を動かし、意思を表示できるようにと、さまざまな方法で刺激を与える。入浴で体を温めたり、体を手でさすって振動させたり、バランスボールを使って足の関節を曲げたり。意識の覚醒を促すための音楽療法では、スタッフがフルートやエレクトーンの生演奏を聴かせることもある。失語症などのある患者では、タブレットを使って言葉を思い起こす言語療法にも力を入れている。

 衣笠和孜(かずし)・岡山療護センター長は「基本方針は『優しい医療・看護の実践』。専門知識を生かした治療、看護の技術開発・研究に励み、質の高い医療を提供できる医療者の育成に努めていく」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年04月06日 更新)

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