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基礎疾患ある人の注意点聞く 新型コロナ、2専門医が解説

利根淳仁副センター長

林田晃寛循環器内科部長

 新型コロナウイルスに感染した場合、高齢者に加えて心臓病、糖尿病、高血圧など基礎疾患がある人は重症化のリスクが高いと言われている。糖尿病や心臓病を治療している人はなぜ重症化しやすいのか、感染しないためには日常生活の中でどのような点に気をつけなければならないのか。具体的な注意点と心構えについて、岡山済生会総合病院の利根淳仁・糖尿病センター副センター長と心臓病センター榊原病院の林田晃寛・循環器内科部長に聞いた。

利根淳仁 岡山済生会総合病院糖尿病センター副センター長
血糖コントロール重要


 ―糖尿病患者は免疫力が弱いため新型コロナウイルスに感染しやすく、重症化もしやすいと言われています。

 血糖値が上がると、免疫機能を担う白血球の働きが落ちて、普段かからないような感染症にかかったり、感染した場合は重症化しやすくなります。

 糖尿病患者にとって重要なのは「血糖のコントロール」です。血糖値をできるだけ健康な人と同じくらいに保てれば、感染症や、高血糖が長期間継続することによって起こる神経障害、網膜症、腎症などの合併症を防ぐことができます。

 ―具体的には、どの程度血糖値が上がると問題が生じやすくなるのでしょうか。

 一般には、血糖値が250mg/dLを超えると白血球の機能が急激に落ちると言われています。過去1、2カ月の平均血糖値を反映するHbA1cが6%台前半で、コントロールの良い人であれば、糖尿病による感染リスクの増大を過度に怖がることはありません。人混みを避け、マスクを着用し、手洗いをしっかりとするなど、健康な人と同様の予防法で十分です。

 HbA1cが8%を超えるコントロール不良の人になると、感染症のリスクは高まります。しかし、予防法といえば同様のことをより厳密にやるしかありません。特に人混みに出ないことが重要です。

 ―日常生活の中で注意すべき点は。

 問題は、調子が悪くなった時をどう乗り切るかでしょう。風邪や胃腸炎などの感染症にかかって発熱、おう吐・下痢、食欲不振などの症状が出た場合、普段は血糖値がコントロールできている人でも体に負担がかかって高血糖になりやすいのです。場合によっては救急対応が必要になることもあります。

 そうした体調を崩した日を「シックデイ」、家庭での対応の基本を「シックデイ・ルール」と言い、具体的な対処法を主治医と相談して決めておく必要があります。

 基本的には水分をしっかりとること。血糖測定器を持っている人はこまめに血糖値を測ってください。薬については、やめるべき薬、継続すべき薬があるので、主治医と十分相談して、あらかじめ決めておかなければなりません。

 食事は、消化がよくエネルギーを効率よくとれるものを食べてください。うどんやプリン、ジュース、ゼリーなどです。食事ができず、エネルギー不足に陥るような状況は、重症化を招いてしまうので避けなければなりません。

 ―家庭内での新型コロナウイルス対策はいかがでしょうか。

 新型ウイルスの全容は明らかになっておらず、それだけにインフルエンザ以上に徹底的な予防策が行われるべきです。周りの家族ができることは自宅にウイルスを持ち込まないことでしょう。家族は症状がなくても患者本人が感染し、発症する可能性があります。感染予防対策は家族ぐるみで取り組まなくてはいけません。

林田晃寛 心臓病センター榊原病院循環器内科部長
服薬守り「3密」避けて


 ―心臓病や太い血管に病気のある方は新型コロナウイルスに感染しやすいのでしょうか。

 心臓病などの基礎疾患がある方がより感染しやすいというデータはありません。ただし、感染して肺炎を発症した時、心臓病のある方は重症化して耐えられないことがあります。その意味で、感染しないように気をつけていただくことが大事です。

 ―心臓病の人が肺炎を起こすと重症化してしまうのはなぜでしょう。

 体はもともと肺から酸素を取り込み、血液循環によって全身の細胞に酸素を供給しています。心臓病があるということは、ポンプ機能を果たす心機能が低下し、うまく血液循環できない状態で、酸素の運搬能力が健常人よりも落ちています。さらに肺炎で肺から血液中に酸素が取り込めなくなると、体内の細胞で酸素が不足します。従って、心臓病の人が肺炎を起こすと重症化してしまいます。

 重症例では、人工呼吸器でサポートしても足りなければ、最終的にECMO(エクモ)という人工心肺で治療しますが、心臓が元気でないとできません。喫煙歴がある人、肺気腫などの持病がある人では、肺の状態が悪いので、いったん肺炎になると持ちこたえるのが困難です。

 ―血管にステントを入れていたり、弁膜症の治療で人工弁、不整脈の治療でペースメーカーやICD(植え込み型除細動器)などの装置が体内にあったりすると、より注意しなければなりませんか。

 治療装置が体内にあると危険が高まるという報告はありません。歯周病菌などの細菌感染に対する注意はいつもお伝えしていますが、細菌とウイルスは別です。一般の方と同様のウイルス対策を心がけていただけばよいです。

 ―血液が固まりにくくなる薬や、血圧を下げる薬を服用されている方も多いと思いますが、感染時の症状に影響することはありませんか。

 そうした薬によって症状が悪化するという情報はありません。ヨーロッパの専門医の学会はわざわざ声明を出し、処方された薬の服用を続けるよう呼び掛けています。必要な薬を飲まないで心臓病を悪化させることが最も危険です。服薬を変えてはいけません。

 ―感染に耐えるには、免疫力を高めておくことも重要ですね。

 免疫反応がしっかりしていると思われる若い方でも重症化する例があり、免疫の弱い方ばかりが重症になるとは限らないようです。換気の悪い「密閉空間」、多数が集まる「密集場所」、間近で会話や発声をする「密接場面」の「3密」を避ける▽流行が拡大している地域に行かない▽手洗いをしっかり行う▽たばこは吸わない―を守ってください。栄養バランスのとれた食事や、よく寝て体調を整えることも大切です。

重症例半数が糖尿病や心臓病 国立感染研分析

 国立感染症研究所(東京)による新型コロナウイルス感染者の分析でも、重症患者のほぼ半数に、糖尿病や心臓病などの基礎疾患があることが明らかになっている。

 全国から3月23日までに報告のあった感染症例516例について調べた。うち集中治療室(ICU)に入室した重症例が35例、気管に管を入れるなどして肺に酸素を送る侵襲的換気の治療を受けたのは49例、人工肺のECMOを使ったケースも18例あった。

 ICU症例では17例に基礎疾患があり、5例はなかった。残りの症例は情報が得られていない。侵襲的換気を必要とした人では29例に基礎疾患があり、4例はなかった。疾患別では糖尿病13例、高血圧12例、心血管疾患5例など。ECMO使用例では11例に基礎疾患があり、2例はなかった。糖尿病4例、高血圧5例、心血管疾患2例となっている。二つ以上の基礎疾患がある人もいた。

 調査時点で亡くなっていたのは10例。261例は既に退院していた。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年04月20日 更新)

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