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(4)精神医療における就労支援~こころのバリアフリーを支える 慈圭病院病棟医長 吉村優作

慈圭病院デイケアでの就労支援のためのカンファレンスの様子。医師、精神保健福祉士など多職種でのカンファレンスにより、外来治療を行いながら円滑に就労支援も進めやすくなる

吉村優作病棟医長

 ■こころのバリアフリー

 地域精神医療では患者さんの地域生活を支えるとともに、本人が希望すれば就労などの社会復帰も視野に入れた支援が行われます。そして、患者さんの就労支援がうまくいくためには職場に「こころのバリアフリー」が広がることも大切です。こころのバリアフリーとは、障害の有無に関わらず、みんなが精神疾患への関心、正しい知識を持ち、偏見を持たず互いに支え合えることを指します=

 患者さんが実際に安定して就労できている割合は日本ではまだ十分高くありません。その要因の一つに精神疾患に関する「知識不足」やそれに基づく「偏見」があると言われています。例えば、雇用者に知識不足や偏見があると、精神疾患をもった方の雇用への不安が強く前向きになれないことや、労働者に精神面の健康問題が生じた時に適切な配慮ができないということが起こり得ます。

 さらに、患者さん自身が持つ「内なる偏見」のために、偏見や差別への恐れから就労活動を避け、社会的にひきこもってしまうことがあります。また、治療を受けていることを雇用者や同僚に伝えるのを避けた結果、就労上の適切な配慮や助けが得られないということも起きます。このように、知識不足や偏見は、職場の「こころのバリアフリー」を阻害してしまいます。

 ■慈圭病院の就労支援

 慈圭病院では、デイケアを中心に多職種チームで就労支援を行っています。デイケア内のグループや個別での就労準備、個々の患者さんの希望に沿った伴走型の支援を基本としています。患者さんの中には偏見・差別への不安や、病気のことを職場にどう伝えるべきかといった不安を抱く方も多く、そのような不安に寄り添い、意思決定を支援していくことも大切にしています。

 また、当院ではハローワークや職場へ支援者が同行する個別支援も行っています。雇用者への情報提供や職場訪問による定着支援を行い、患者さんも雇用者も安心して就労を継続できるような支援を目指しています。雇用者が不安や偏見を持つ背景には精神疾患に関する「知識不足」がある場合が多いとされます。雇用者側のニーズや不安に応える形で、求められれば精神医療の専門家として知識の提供や連携を積極的に行う姿勢が必要です。これは職場の「こころのバリアフリー」を支えることにもつながると考えています。

 ■みんなに理解が広まることが大切

 精神疾患を理解し偏見を持たないためには、正しい知識を持つとともに、実際に精神疾患にかかった経験をもつ当事者との交流が効果的だと分かっています。それは職場でも同様であり、実際に働く当事者と交流し共に働く機会をみんなが持てること、それ自体が職場全体の精神疾患への理解を高め、互いに支え合い安心して働けることにつながるはずです。

 ストレス社会といわれる現代では、5人に1人が精神疾患にかかるとされ、誰にとっても無関係ではありません。働く場・社会に精神疾患の理解が広がり、偏見が軽減し、みんなが活躍できる世の中になることを願ってやみません。

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 慈圭病院(086―262―1191)

 よしむら・ゆうさく 徳島大学医学部卒業。岡山市立市民病院、慈圭病院、川崎医科大学附属病院に勤務。ロンドン大学精神医学研究所に留学後、2017年より慈圭病院に勤務。医学博士。日本精神神経学会(専門医、指導医)、日本臨床精神神経薬理学会(専門医)などに所属。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年07月07日 更新)

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