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WHO山本尚子事務局長補に聞く 新型コロナ対応 世界連携促す

WHOの幹部会議に出席する山本尚子さん。会議にはテドロス事務局長らも参加し、世界の状況を見据えた新型コロナ対策が議論される

 新型コロナウイルス感染症の対応で中心的な役割を担うべき世界保健機関(WHO)が岐路に立たされている。米国と中国の対立でトランプ米政権はWHOからの脱退を正式通告した。南米やアフリカで感染が拡大し、第2波、第3波の襲来も確実視される中、本部のあるスイス・ジュネーブで日本人最高位の事務局長補を務める山本尚子さん(59)=岡山大大学院出身=は「未曽有の事態に、唯一の国際保健機関として果たす役割は重要」と強調した。ウェブ会議システムで話を聞いた。

 ―米中の対立がクローズアップされている。

 テドロス事務局長が流行の発端となった中国の措置を称賛し、米国などから「中国寄り」「後手に回っている」といった批判が噴出している。新型コロナの実態解明や治療薬、ワクチンの開発など、各国が団結すべき事態に残念な状況だ。5月の総会で独立した検証委員会の設置が決まった。われわれもWHOが抱える課題を認識しており、委員会での議論を基に改革に取り組みたい。

 ―WHOの活動が見えにくいという声を耳にする。

 強い権限でスピード感ある対応が期待されようが、現状は感染源や感染状況を調べる調査権はなく、各国の自発的報告による。感染阻止への政策提言やガイドラインを発信しているが、渡航や経済活動の制限を含め、実行するかは各国の判断だ。そうしたジレンマを抱えながらも世界の知見を集め、連携を促す役割を果たそうと努力している。

 ―事務局長補の仕事は。

 事務局長補は複数いて、私は約200人の部下と各国の医療体制強化や衛生環境の向上に取り組んでいる。新型コロナの影響は貧困層により厳しく、社会の公平性・平等性が問われている。開発途上国では通常の保健医療活動が止まり、子どもの栄養不良が深刻化している。今一番の課題が清潔な水の確保だ。世界の医療機関の40%以上が清潔な水がない中で治療を続けている。保健医療インフラの整備・維持は急務だ。

 ―日本の状況をWHOはどう見ているか。

 日本は感染者数、とりわけ死亡者数が少ない。同僚から「なぜ、日本は抑え込みに成功しているのか」とよく尋ねられる。この感染症は高齢者の重症化リスクが高い。高齢化が進む日本にあって、介護福祉施設などへの影響を最小限に抑えられているのは特筆すべきだ。封じ込めへの科学的根拠を示すことが日本に期待される。特にクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」のような特殊な閉鎖空間での集団感染は世界の誰も経験したことがない。ウイルスの広がり方などの知見は参考になる。

 ―WHO内の雰囲気は。

 組織に批判があるのは確かだが、人類史に残るであろう大禍にどう対するか、職員が心一つで当たっているのは間違いない。同時にコロナ後の世界をどう構築していくかを見据えた議論も始めている。「グリーン・ヘルス・リカバリー」という「より健康で自然と調和した社会づくり」を提唱している。ビジョンの実現に日本の参画は欠かせない。岡山にゆかりのある者として、地元に期待している。感染者が少なかった県内には大学が多い。医療、福祉、教育、工学、情報といった各分野が連携し、岡山の経験を基に、コロナ後の議論を引っ張ってほしい。

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 世界保健機関(WHO) 「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」を目的に、1948年4月に設立された。スイスのジュネーブに本部があり、194の国・地域が加盟している。世界各地に6地域事務局と約150カ所のWHO事務所がある。職員は約7千人。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年07月11日 更新)

タグ: 医療・話題感染症

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