文字 

コロナだけじゃない 感染症から子ども守って 小児科2医師が解説

中島英和医師

清水順也医師

 乳幼児を中心に夏場に流行するのが「夏風邪」だ。代表選手が「手足口病」「ヘルパンギーナ」「咽頭結膜熱(プール熱)」で、いずれもウイルス性の感染症。この三つに加え、近年は「RSウイルス」の流行も見られるようになった。多くは軽症で自然に治るが、重症化すると命に関わるケースもある。倉敷成人病センター(倉敷市白楽町)小児科部長の中島英和医師に、現状と対策について話を聞いた。

「夏風邪」現状と対策 RSウイルス近年流行
倉敷成人病センター(倉敷市白楽町)小児科部長 中島英和医師


 ■手足口病 口の粘膜や手のひら、足の裏に小さな水疱(すいほう)性の発疹が出て、痛みやかゆみを伴う。中島医師によると、昨年は腕や膝、おなかなど体のあちこちに水疱が出るタイプが現れ、水疱瘡(みずぼうそう)ではないかと疑ったと言う。原因となるウイルスの種類が多いため、いろんな発症のタイプがある。

 くしゃみやせきなどによる飛沫(ひまつ)感染や接触感染、便でも感染する。安静にしていれば数日間で自然に治るが、症状が治まっても唾液から2週間、便からは4週間にわたってウイルスが排出されるので、周囲への感染に注意が必要。

 中島医師は「口の中が痛んで飲んだり食べたりが難しくなるので、脱水症状には気を付けて」と注意を促す。基本的には「食べて、寝て、遊べていれば、まず大丈夫」だが、尿の回数が減ったり、ぐったりしていたら、すぐに受診を考えるべきだとしている。

 ■ヘルパンギーナ 手足口病と同じタイプのウイルスが原因。飛沫や接触によって感染する。発症すると口の奥に水疱ができて痛みや発熱を伴う。発熱時に熱性けいれんが起こることがある。手足口病と同様に、食事や水分がとりにくくなるので、脱水症状には注意が必要。数日間で自然に治る。

 ■咽頭結膜熱(プール熱) プールの水を介して流行することがあるためプール熱とも呼ばれる。感染力が強く、学校感染症の第2種に指定され、発病すると通学・通園が禁止となる。こまめな手洗い、感染者が触ったおもちゃやドアノブなどの消毒に加え、おむつの交換時など排便後の適切な処理が感染を広げないためには必要だ。

 症状は、目が充血し、喉が赤く腫れて痛みを伴い、38~40度の高熱を発する。「水分摂取ができなくなったら点滴が必要となるので受診してほしい」

 ■RSウイルス 「以前は冬の病気と言われていたが、近年、夏に流行するようになった」と中島医師。2歳までにほぼ全員が感染する。初期症状は通常の風邪に似ているため見分けにくい。多くは軽症で治まるが、重症化するとせきがひどくなって呼吸困難となり、細気管支炎や肺炎へと進んでいく。「ヒーヒー、ゼーゼーとひどく苦しむ。乳幼児にはしんどい病気だ。場合によっては命に関わることがある」と話す。

 飛沫や接触によって感染する。多くは家族や学校園など集団内部でかかりやすい。「いつもの風邪とは様子が違う、つらそうだ、そう思ったら早めに受診するべきだ」と中島医師。予防法は「バランスよく食べ、疲れを貯めないようにしっかり眠ること」。治療薬はなく発熱やせきを抑える対症療法のみ。重症化リスクの高い呼吸器や心臓に障害のある乳幼児、早産児、ダウン症児などに対しては、予防のための抗体薬「シナジス」の投与が保険診療で行われている。

予防接種は受けよう 「定期」延期で重症化も
国立病院機構岡山医療センター(岡山市北区田益)小児科医長 清水順也医師


 ワクチンを接種することで、あらかじめウイルスや細菌に対する免疫を体内に作り出し、病気になりにくくするのが予防接種。法律に基づいて市町村が実施する「定期接種」と、希望者が各自の負担で受ける「任意接種」がある。定期予防接種は生後2カ月からヒブ(インフルエンザ菌b型)や肺炎球菌などさまざまなワクチンを公費負担で接種できる。

 清水医師によると、定期予防接種は、小児期にかかると重症化しやすい▽流行性がある▽ワクチン接種による予防効果が確認されている―などの疾病が対象となっている。つまり、予防接種には「個人の感染予防や重症化の防止と同時に、多くの人が接種を受けることによって地域での感染の拡大を防ぐという社会的な意義もある」と強調する。

 厚生労働省は「予防接種を遅らせると重い感染症になるリスクが高まる」とする保護者向けのリーフレットを6月に作成。予定通りの接種を呼び掛けている。

 例えば、せきやくしゃみなどによって感染する肺炎球菌感染症は、幼い子どもにとっては命に関わる病気だ。風邪のような症状で済めばいいが、重症化すると中耳炎や肺炎、髄膜炎を起こすことがある。髄膜炎になってしまうと難聴やまひなどの後遺症が生じる可能性もあるが、清水医師は「定期接種によって肺炎球菌による髄膜炎の患者は激減した」と指摘する。

 厚生労働省の資料によると、小児の肺炎球菌による髄膜炎は、2008~10年は10万人あたり約2・8人が罹患(りかん)していたが、ワクチンが普及した12年には、約0・8人と、大幅な患者の減少が見られたという。

 ただ、NPO法人「VPDを知って、子どもを守ろうの会」の調査では、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、「接種時期を延期したが、接種した」が17%、「接種時期を延期して、まだ接種していない」が16%で、計33%が定期接種を延期していた。その理由は「感染が怖かった」「外出自粛をしていた」「多少遅れても問題ないと思った」などだった。

 定期予防接種は種類が多く、小児用肺炎球菌ワクチンは生後2カ月から5歳未満の間に4回、B型肝炎ワクチンでは1歳未満で3回の接種が必要になるなど複雑だ。

 それでも清水医師は「お母さんからもらった免疫が減るタイミングで、赤ちゃんがかかりやすい感染症から赤ちゃんを守るために、決められた期間、回数の接種が大切だ」と説明。どの医療機関も予防接種の患者と一般の患者は部屋と時間を別にするなど感染対策はとっているとして、「仮に予定していた接種を受けそびれたとしても、なるべく早く医療機関を受診して接種してほしい」と話している。

 新型コロナウイルス感染症への不安から、子どもの予防接種を控えることのないよう国が呼び掛けている。東京のNPO法人が5~6月に行ったインターネット調査では、保護者の33%が「感染が怖い」などの理由で定期接種を延期していた。国立病院機構岡山医療センター(岡山市北区田益)小児科医長の清水順也医師は「どの医療機関も新型コロナ感染防止対策に努めているので、接種をためらわないでほしい」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年07月20日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ