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コロナと闘う県内の臨床工学技士 高度医療機器のスペシャリスト

エクモの点検をする臨床工学技士(倉敷中央病院提供)

 新型コロナウイルスの治療で、人工呼吸器や人工心肺装置「ECMO(エクモ)」を操作する臨床工学技士(技士)が注目を集めている。流行期には感染の不安と闘いながらチーム医療を支える医療機器のスペシャリストとして活躍した。各病院と協力し、オンラインセミナーによる知識の蓄積や技術のある人材の確保など第2波を見据えた取り組みも進めている。

 「初めはウイルスについて分からないことが多く、不安とストレスがすごかった。特に技士が1人になる夜は心配だった」。倉敷中央病院(倉敷市美和)の男性技士は話す。

装置を改良

 同病院ではウイルスが外部に漏れないように陰圧状態にした個室10床で感染が疑われる人たちを受け入れた。重点を置いたのは院内クラスター(感染者集団)の発生を防ぐことだ。

 PCR検査の結果が出るまでは受け入れた人は全員感染しているという前提で対応し、機器の扱いや、感染防止に細心の注意を払った。例えば人工呼吸器を使用する場合、細かい微粒子・エアロゾルの発生により感染の恐れがあるマスク式ではなく、人工鼻を使う挿管管理とした。治療終了まで機器は感染者の部屋から出さないことも決めた。

 コロナ感染者に使用する医療機器について、独自のマニュアルも作成。4回改訂を重ね、医師や看護師らと共有した。さらに、機器に精通している利点を生かし装置を改良。エクモは排出されるガスにウイルスが含まれる懸念があり、排出口付近をビニールで覆うなど工夫した。

 臨床工学部の斎藤真澄技師長は「医療と機械両方の知識を持つのは私たちという気概で業務に当たっている。幸い重症者はいなかったが、いつ流行してもいいように準備を進めたい」と話す。

技術向上

 県臨床工学技士会としても、各病院と協力して第2波に備えている。

 6月に病院の枠を超えて対策を学ぶオンラインセミナーを初開催した。「担当を決め最小限の人数で業務に当たる」「使用した機器にはシールを貼る」「感染からスタッフを守ることが重要」などと実際に治療に当たった技士や医師が話し、約130人が知識の蓄積を図った。

 ここに来て大きな問題となっているのが人材不足だ。政府はエクモの増産を図る考えだが、同技士会によると「資格を持っていても機器の使用経験がなければ操作できず、使える人は限られる」のが全国的な傾向のようだ。倉敷中央病院臨床工学部には約60人の技士がいるが、エクモなどを使えるのは半数の約30人という。

 こうした実情を背景に、全国組織に技術のある人材を登録し、緊急時に必要な地域に集中的に派遣できる態勢を整えた。流行地域の医療崩壊を防ぐためだ。6月まで会長を務めた田中昭彦さんは「専門職として個々の技術向上に努めたい」と話している。

 臨床工学技士 医療機器を扱う日本独特の専門職。1987年に国家資格となった。資格取得者は全国に約4万7800人いるが、実際に勤務しているのは2万人ほどとされる。県内で資格を持っているのは約600人とみられる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年07月20日 更新)

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