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進行肺がん、生存率向上 「松岡良明賞」 木浦教授(岡山大病院)に聞く

木浦勝行氏

 がん撲滅に功績のあった個人・団体をたたえる山陽新聞社会事業団の第25回「松岡良明賞」を受賞した岡山大病院(岡山市北区鹿田町)呼吸器・アレルギー内科教授の木浦勝行氏。手術が難しい進行肺がんの治療や研究に30年以上携わってきた。現在取り組んでいる研究や今後の展望などについて聞いた。

 ―進行肺がんは治療が難しいと聞く。

 肺にできたがん細胞が周辺の臓器やリンパ節に転移し、切除手術が困難になった状態が「進行肺がん」。私が治療を始めた30年ほど前、進行度がステージ3や4の患者さんは手を尽くしても1年で80%が亡くなってしまい、2年以上生きられる患者さんは5%程度。完治など到底無理だと言われていた。

 ―日本肺癌(がん)学会のガイドラインで標準治療となる治療法を確立した。

 「シスプラチン・ドセタキセル併用放射線化学療法」といい、抗がん剤のシスプラチン、ドセタキセルの投与と放射線照射を併用する。臨床試験(治験)を始めたのは1998年。2種類の抗がん剤投与に相乗効果があることを事前に突き止めていたことに加え、ドセタキセルの類似薬と放射線を組み合わせると高い効果があるとの論文を目にしたのがきっかけだった。当時の標準治療では5年生存率が20%。私たちの治験では25%まで高めることができ、2014年に標準治療となった。

 ―どのような思いで研究、治療に当たってきたのか。

 目の前で亡くなっていく患者さんを見て、何とかしなければと思っていた。われわれが確立した治療で、腫瘍が小さくなった患者さんには外科での切除手術を積極的に勧めた。その結果、5年生存率を50%以上に引き上げることができた。

 ―肺がんを完全に治癒できるようになる時代は来るのか。

 「オプジーボ」に代表されるがん免疫治療薬が近年、注目を集めている。世界中の治験で高い効果が報告されており、私たちも研究を進めている。従来の治療法に免疫療法のほか、がんの原因となる遺伝子を見つけて最適な治療につなげる「ゲノム医療」などを組み合わせた新しい治療法が確立できれば、肺がんは完治する病気になるかもしれない。そんな期待が抱けるほど技術は日々進歩してきている。

 ―岡山大病院を中心に中国四国地方の基幹病院でつくる共同研究グループ「OLCSG(岡山肺癌治療研究会)」の代表世話人を務めている。

 OLCSGには呼吸器内科や腫瘍内科、放射線科などの医師、研修医ら約130人が参加している。共同で治験に取り組んでいるほか、最新の治療法や臨床研究などをテーマにした講演会を年に2回開いている。どの病院でも高いレベルの医療を提供できるように、若手医師らの技術向上を支えることも大事な役割だと認識している。今後も肺がんの撲滅を目指していきたい。

 きうら・かつゆき 1983年岡山大医学部卒。岡山大病院副科長(血液・腫瘍内科、呼吸器・アレルギー内科)などを経て、2011年5月から現職。日本肺癌学会理事や同学会中国四国支部長、日本癌学会評議員などを務める。日本呼吸器学会指導医。真庭市目木出身。62歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年09月27日 更新)

タグ: がん岡山大学病院

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