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(4)チームワークと新装備で重症外傷患者に迅速対応 津山中央病院外科部長外傷センター長 繁光薫

繁光薫氏

 津山中央病院は救命救急センターを有する3次救急病院であり、緊急手術が必要な外傷患者さんも多数受け入れています。たとえば、2019年1月から12月までの1年間では309例の外傷患者さんが救急搬送されています。

 なかでも、複数箇所に受傷部位を有する多発外傷やショック状態の患者さんでは、まず救急医あるいは麻酔科医がリーダーとなって初期診療を行います。プライマリー・サーベイすなわち生命維持に直結する問題を最優先とした検索を行い、呼吸・循環の安定をはかります。

 次いでセカンダリー・サーベイすなわち全身の損傷を系統的に検索し、必要に応じて脳外科・外科・整形外科・形成外科などの各科専門医が召集され、治療の重要度・緊急性や優先順位を検討します。こうすることで単科診療で陥りがちな見落としや優先順位の選択の誤りによるプリベンタブル・トラウマ・デス(防ぎえた外傷死)をできるだけなくすよう努めています。

 また、通常の開腹手術では、止血が困難であったり過大な侵襲を伴う腹部血管や腎損傷・骨盤骨折などによる出血に対し、カテーテルを用いた血管内治療を専門とするIVR専門医のオンコール体制により、緊急経カテーテル的動脈塞栓術(TAE=Transcatheter Arterial Embolization)で止血が得られた後、損傷部位の手術を行うことも可能です。

 また循環動態が不安定な重症外傷患者さんに対しては、ダメージ・コントロール・サージェリー(DCS)すなわち初回手術をガーゼパッキング(腹腔(ふくくう)内にガーゼを詰めて圧迫止血を行う)などによる出血と感染のコントロールにとどめ、いったん集中治療室(ICU)でバイタルサインや凝固能の改善をはかった後に根治手術を行う治療戦略がとられますが、DCS術後に循環動態の安定が依然として得られない場合には、追加治療としてのTAEが必要になる可能性もあります。

 当院では昨年10月に新手術室が完成し、ハイブリッド手術室(手術台と心・血管エックス線撮影装置を組み合わせた手術室)が稼働しています=写真。従来カテーテル室で施行していた血管内治療が、手術室でより安全に行えると共に、手術室とカテーテル室、それぞれ別の場所に設置されていた機器を組み合わせることにより、DCSとTAEがより迅速かつ効果的な併用療法として行うことが可能になりました。

 このように、当院ではチームワークと新しい装備を武器に、緊急性の高い重症外傷患者さんに迅速かつ適切に対応することで、救命率や社会復帰率の向上を目指しています。

     ◇

 津山中央病院(0868―21―8111)

 しげみつ・かおり 岡山大学医学部卒。岡山大学博士課程修了。岡山済生会総合病院、川崎医科大学付属川崎病院、関西医科大学附属病院を経て2017年より津山中央病院に勤務。医学博士、外科専門医・指導医、消化器外科専門医・指導医、救急科専門医、腹部救急暫定指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年10月05日 更新)

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