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(2)中高年の肩の痛み 岡山赤十字病院第一整形外科部長リウマチ科部長 リハビリテーション科部長 小西池泰三

 中高年の肩の痛みについてお話ししたいと思います。

 主な疾患は五十肩と腱板(けんばん)断裂です。私は「夜間痛があるか、肩が硬いか(拘縮(こうしゅく))」に注目して診察しています。

 (1)夜間痛について

 「昼間はそうでもないが、夜に横になっていると肩が痛い」という「夜間痛」があります。透析患者さんにも夜間痛はよく見られるのですが、透析中にも同様の痛みがあります。「これはなぜか?」ということが肩に興味を持ったきっかけでした。「夜間痛とは肩の炎症による痛みである」というのが私の結論です。

 (2)五十肩(四十肩)

 40~50歳になると、肩が痛くなることはよく知られています。特徴は肩の痛みと可動域制限(拘縮)があるということです。この原因についてはまだよくわかっていませんが、2年以内で自然治癒します。

 (3)腱板断裂

 肩関節を取り囲む四つの小さな筋を腱板と言います。上腕骨を上に挙げる働きがあります。腱板は40歳代ではまず断裂しないのですが、50歳代で約10%、70歳以上では約30%に腱板断裂があると言われています。腱板断裂の約60%は無症状です。

 腱板が断裂した直後は肩の痛みや肩の挙上障害があるのですが、時間の経過で全く症状が無くなることがあります。これは断裂が治癒したわけではなく、炎症がとれたためです。この後、腱板断裂は無症状で進行し、筋の萎縮が進行していくと手術による腱板断裂の修復が困難となっていきます。個人差はあるのですが、この期間は約5年と言われています。

 (3)―1腱板断裂は手術をするべきか

 私は「手術するかどうかは痛みではなく5年後どのような生活がしたいかでお考えください」とお話ししています。仕事やスポーツで今後も肩をよく使うのであれば、断裂が小さくても早期に手術すべきであると考えます。高齢の女性で肩の機能を特に求めない人であれば、手術は必要ないと思います。また、高齢であっても「スポーツを楽しみたい、自立した生活をしたい」のであれば手術がいいと思います。

 (3)―2手術法について

 1911年アメリカの整形外科医Codmanは初めて断裂した腱板と骨を糸で縫合しました。20年ほど前より鏡視下手術が導入されましたが、100年以上経った現在でも手術は基本的に同じです。腱板が骨に完全に癒合するには半年かかると言われています。癒合する前に負荷がかかり過ぎれば、腱板が再断裂することがあります。特に萎縮した筋では約40%に再断裂を来すとされています。

 腱板断裂術後のリハビリで最も重要なことは、肩を動かすことでなく、術後も強い痛みが生じるCRPS(複合性局所疼痛(とうつう)症候群)予防のために手指や肘関節をしっかり動かすことであると考えています。

 腱板の縫合が不可能な場合に、肩の人工関節が使用できるようになりましたが、この手術は最後の手段です。

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 岡山赤十字病院(086―222―8811)

 こにしいけ・たいぞう 岡山大学医学部卒。岡山市民病院、国立岩国病院、国立岡山病院、笠岡第一病院、赤穂中央病院を経て1999年より岡山赤十字病院勤務。日本整形外科学会専門医、日本手外科学会専門医、日本リハビリテーション学会専門医、日本リウマチ学会専門医。医学博士。岡山大学整形外科臨床教授。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年10月19日 更新)

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