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(1)気後れが手遅れを招く 大腸内視鏡検査のすすめ チクバ外科・胃腸科・肛門科病院名誉院長内視鏡センター長 瀧上隆夫

瀧上隆夫氏

 わが国で1年間に亡くなられる方が現在約138万人(令和元年)います。その死亡原因の第1位が、がんに代表される悪性腫瘍で、約37万6千人(27・3%)の方が命を落とされています=表1。日本人の3・6人に1人が、がんで亡くなっています。

 がんの中で、今までは胃がんが多く、ついで肺がんでしたが、胃がんは診断、治療の普及、ピロリ菌の除菌などで次第に減少しています。代わって大腸がんが着実に増加し、“21世紀のがん”とも言われています。女性ではがんの死亡原因第1位になっています=表2

 しかし、がんの中でも大腸がんは早期に発見し、治療できれば治りやすいがんです。

 「お尻から血が出た」(便潜血も含めて)時、たかが“痔(じ)”だろうと自己診断するのは危険です。病気に関する正しい知識を身につけ、お尻から診られるのは恥ずかしいからといって、気後れが手遅れを招かないように専門医を受診し、大腸の検査を受けることをお勧めします。

 大腸がんの重要なサインとしての症状は血便ですが、「お尻から血が出る」と一言でいっても、出血の種類、程度もさまざまで、がん以外にも多くの病気が考えられます。

 がんからの出血量が少ないと、肉眼ではわかりません。目に見えない微量の血液が便中に混じっていないかを調べるのが「便潜血反応検査」です。以前と違い、食物や薬剤の影響を受けにくく、偽陽性になりにくい、人のヘモグロビンに直接反応する免疫学的検査方法が一般的で、大腸がん検診で2日間の便を採取して調べるのに用いられています。感度は約1千倍、つまり、1ミリリットルの血液を千ミリリットル(1リットル)のペットボトルに溶かして、その中にスティックをつけると陽性になる感度で作られています。一般にヒトの便1ミリリットル中にヘモグロビン100ナノグラム/ミリリットル以上で陽性となっています。

 検診で便潜血陽性を指摘され、ついに「大腸がんになった」と心配して外来受診される方がおられますが、便潜血陽性のうち、がんまたはポリープの人は数%です。ほとんどの人は大きな病気はなく、肛門(いわゆる痔)から陽性になる方が多いのです=表3

 大腸がんの死亡率を減らすために検診は非常に重要です。現在、わが国の大腸がん検診率はせいぜい30~40%くらいです。検診率を50%に上げれば大腸がんの死亡率は半分になると言われています。大腸がんは症状の無い時に早期発見し、治療すれば治るといわれるゆえんです。

 大腸がん検診をすすんで受け、症状の無い時に一度は大腸内視鏡検査を受けることをお勧めします。

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 チクバ外科・胃腸科・肛門科病院(086―485―1755)

 たきうえ・たかお 高梁高校、岡山大学医学部卒。1978年からチクバ外科・胃腸科・肛門科に勤務。ニューヨークで、胃腸内視鏡学のパイオニアである新谷弘美医師に師事し大腸内視鏡検査を研修。2000年にチクバ外科・胃腸科・肛門科病院長就任、18年から現職。日本大腸肛門病学会専門医・指導医、日本臨床肛門病学会理事。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年10月19日 更新)

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